河川敷を埋め尽くす「謎のデコトラ集団」
12月31日、埼玉・深谷にある利根川の河川敷は騒がしくなる。
いつもは車がほとんど通らない川沿いの道路からトラックやダンプカーが続々と河川敷のグラウンドへ降りていく。1台、10台、30台……、2023年の年の瀬にはこの場所に500台が集まった。
トラックの多くは派手な装飾をほどこしてある。コンテナには、天女や龍、鳳凰などの絵が描かれ、戦車の砲台のようなパーツや、鉄仮面のように重厚なバンパーをつけたトラックもあった。
河川敷に集まったのは、いわゆるデコトラ(デコレーション・トラック)だ。
1996年から続くカウントダウンイベントで、夜になるとデコトラが一斉に光を放ち、会場では歌謡曲ショーが開かれる。花火と共に新年を迎えるのが恒例だ。この年の来場者は約5000人。過去にはデコトラを見ようとフランスから訪れた人もいた。
「カウントダウン、いわゆる年越しだな。映画『トラック野郎』の主演だった菅原文太さんが亡くなった2014年には追悼式もやってさ。ここに入りきれないくらいの人が来たんだよな。駐車場に入るまで6時間待ちだったよ」
こう話すのは、デコトラの愛好者たちで作る「全国哥麿会」の3代目会長・田島順市さん(76)。デコトラ歴49年のベテランで、昭和から令和までのデコトラ文化を牽引してきた立役者だ。
「トラック野郎」に憧れた運転手たち
デコトラの愛好団体は全国各地に点在している。そのほとんどが数人から数十人規模だ。一方、哥麿会は北海道から沖縄まで全国に35の支部を持ち、社団法人にも登録している。会員数は約500人で、日本一の規模となるデコトラ愛好団体だ。
哥麿会に所属する会員は生粋のデコトラ好きが多い。
50代の男性会員は「中学生の頃に映画『トラック野郎』を見てから絶対にデコトラに乗りたいと思ったんだよね。トラックを運転するようになって、自分で飾り始めたんだ。もう30年以上やっている」と語る。
20年前に会員になったという40代の会員は「昔は少ししか飾ってなかったんだ。会に入ってからはみんなの影響を受けて、フロントやバンパーの装飾品をつけてどんどん大きくなっていったよ。全く飽きないよね」と笑顔で振り返った。
30代から70代までのデコトラ好きが集まる哥麿会。しかし、もともとはデコトラがテーマの団体ではなく、映画撮影の協力団体だった。