「なにを」「どんな風に」話すか

ときに、プレゼンなどを前にして「実は寝不足でうまくできるか……」と自分のマイナス面を強調するなど、ちょっとした言い訳をしてしまうことがある。心理学者エドワード・E・ジョーンズらが、こうした行為をセルフ・ハンディキャッピングとして提唱し、失敗を外的な要因に、成功を内的な要因に求める行為だとしている。平たくいえば、自らにハンディキャップを課すことで、たとえ失敗をしても言い訳になり、成功したときには不利な条件下にあったということで、成功価値を高められるというわけだ。

さて、今回はそんな「言い訳」を並べたて、「なぜあなたが理想のキャリアを築けないか」という耳の痛いテーマで滔々と話しかけてくれる、ラリー・スミス氏のプレゼンから見ていこう。ジョークを交えながらもシニカルな口調で、かなり辛辣で率直。ときに芝居がかってすらいながら、聞き手に話しかける風を貫いて、記憶に残るプレゼンだ。

全体的にネガティブな側面で進んでいくのに、どこか親しみがわくのは、単純に言葉の羅列ではない、そこに含まれる”ニュアンス”や”香り”によるのだろう。大切なのは「何を話すか」ながら、それに加えて「どんな風に話すか」も重要だといういい例である。話の内容は次のようなものだ。

ラリー氏は「あなたが理想のキャリアを築けない理由」として、「まあまあ良い仕事」は消滅しつつあり、「そこそこのキャリア」なんて存在しないものを探し求めていたら、失敗するにきまっている……といった語り口で始める。現代にあるのは、「立派なキャリア」か「劣悪な環境の仕事」のどちらかだ(くらいにとらえたほうがいい)という展開だ。

多くの人はこの「立派なキャリア」を意識しているものの、一歩踏み出すことが出来ずにいるという。なぜなら、「情熱を追い求めない!」と、自分で決めてしまっているからだ。こうした自分を正当化するために、多種多様で想像力を駆使した、いろいろな言い訳を持ち合わせているとして、笑いを交えてこんな例をあげていく。

1.自分には運がない(ただし、運さえあれば立派なキャリアを築けるだろう)
2.成功は単なる運に過ぎない(でも、運がなくてもまあまあ良い仕事はある)
3.成功するような情熱を持つ人たちは変人で、自分は普通にいい人だ(だって、凄いキャリアの奴って、どこか変だろ? だけど自分は普通。まだ情熱を追い求める準備ができていないだけだ)
4.成功する人たちは天才で、自分は天才ではない(特別天才ではないが充分有能だ。一生懸命に働けば“そこそこのキャリア”は手に入る)
5.仕事よりも人間関係や家族が大切(立派なキャリアを追い求めよう。でも、成功より人間関係が大事だ。友人として、夫・妻として、親として、立派でありたい。偉業を成し遂げるために彼らを犠牲にはできない)

さらに言い訳と理由は深くなり、“キャリアに必要なもの”について説いていく。