京セラ発のフィロソフィと部門別採算制度という2大稲盛メソッドをKDDI、JALだけでなく国内外のあらゆる企業・団体が採用を開始。加速度的にコストが下がり、飛躍的に業績が上がる奇跡の現場に密着。
ふと、取材メモを取る手を止めると、目の前の日本航空(JAL)の地上スタッフ、高瀬菜海の目に涙が浮かんでいた。「JALフィロソフィ」の中でどの言葉が好きか質問したときだ。
「『美しい心をもつ』。私はこの言葉が好きです。私たちの心がすさんでしまったら、お客様に最高のサービスが提供できなくなってしまうからです」
JALフィロソフィとは、再建に向けた社員の行動指針で、破綻後、立て直しのため会長職に就いた稲盛和夫(現名誉会長)の経営哲学をもとに、つくり上げたものだ。「人間として何が正しいかで判断する」「売上を最大に、経費を最小に」……簡潔な言葉が40個並ぶ。
「でも、心がすさむこともありませんでしたか」。そう聞き直すと高瀬は思い出したように、JALの株を持っていた顧客のことを話した。破綻後の上場廃止により、既存株は無価値となっていた。
「そのお客様がおっしゃるには、『私は子供のころからJALが好きで、これからも死ぬまで乗り続けるから、大変でも頑張ってね』と……。その瞬間、つらいことも吹き飛びました。私たちはお客様の激励の言葉で救われる。だから申し訳ない気持ちで一杯になるんです」
JALの社員たちは、顧客から激励の言葉をかけられるたびに涙ぐんだという。高瀬はその場面を思い出したようだった。
顧客の言葉に後押しされるように、高瀬は今日も業務の改善に励む。稲盛から求められたのは赤字脱却のための経費削減だ。社員関連費用は削り、その分、顧客サービスに費用をかける。羽田空港もオフィスを減らし、顧客ラウンジを広げた。稲盛も東京でのホテル生活で夕食をコンビニ弁当ですます日もあった。
取材した日、高瀬は赤い拡声器を持参していた。職場の羽田空港の保安検査場の前で顧客に案内を行う際、使うものだ。
「これ、故障した拡声器2つを1つにしたものなんです。片方から部品を取り、もう一方の部品と交換する。以前は修理代など考えませんでした。今はできる限り社内修理です。壊れた行列整理用のガイドポールも整備さんに直してもらいました」