京セラ発のフィロソフィと部門別採算制度という2大稲盛メソッドを国内外のあらゆる企業・団体が採用している。加速度的にコストが下がり、飛躍的に業績が上がる奇跡の現場に密着。
2012年10月、NHKは2夜連続でNHKスペシャル「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオ」を放送した。番組は、ついこの間まで世界を席巻していた日本の製造業が、なぜ総敗北状況に陥ったのか、韓国のサムスン、中国のハイアールなど海外の強力なライバルはどうやって力をつけたのかを描いた。
日中関係が一番厳しい状態に陥った時期の放送だったにもかかわらず、ハイアールに対する日本人視聴者の評価はおおむね好意的だったという。ハイアールの猛烈な成長ぶりに、多くの視聴者が日本企業の問題点を見出したからだろう。
振り返ってみると、ハイアールもいばらの道を歩んできたものだ。ハイアールの前身は、山東省青島市の国有企業、青島冷蔵庫総廠で、当時の従業員は400人ほどだった。経営効率の悪い中国国有企業の例に漏れず、経営不振に陥った同社は1984年には1年間で3回も工場長を代えるなどして再起を図ったものの、いずれも失敗に終わり、負債額は約147万元に膨らみ、給料も支給できないほどの窮地に追い込まれていた。
最後に送り込まれた工場長が、現在のCEOである張瑞敏氏だった。
「大小便禁止」から始めた改革
張氏は、春節(旧正月)前に従業員にボーナスを支給することはできないが、せめて春節中に必要な食品だけは支給しようと考えた。だが、工場にはその金もなかった。張氏は、知り合いの農村企業経営者からお金を借りて、なんとかその食品を従業員に配った。そうした一部始終を見ていた従業員は、この新しい工場長が本気だということを悟り、張氏についていこうと思うようになったのだ。
しかし、従業員の士気を取り戻す作業は大変だった。張氏は、「会社は8時に出勤というのに、9時頃になってぼつぼつ出社してくる。11時でも過ぎると、たとえ誰かが工場に爆弾を投げ込んでも死傷者が出ないほど、みんなが昼食を作りに自宅に帰ったのだ」と当時の荒んだ様子を振り返る。
そのため張氏は、従業員が守らなければならない13のルールをつくった。そのなかで一番基本とされたルールは、なんと「工場内で大小便をするな」ということだった。業績不振のため将来に希望を持てなくなり、気持ちが荒んでいたとはいえ、従業員の資質そのものも極めて低いものだった。