京セラ発のフィロソフィと部門別採算制度という2大稲盛メソッドを国内外のあらゆる企業・団体が採用している。加速度的にコストが下がり、飛躍的に業績が上がる奇跡の現場に密着。
「通用するはずない、と思いました。モノづくりの経営のシステムが、患者さんを相手にする病院に合うわけがないって」
滋賀県・公立甲賀病院のキャリア20年以上のベテラン看護師長、井原憲子は当時を語った。
当時とは2009年、稲盛和夫が考案したアメーバ経営を病院向けにアレンジした「京セラ式病院原価管理手法(以下、京セラ式)」が同病院に導入されたときのことだ。井原は京セラ式に反発感情のようなものを持ったが、ほどなく、それも消えてなくなった……。
いま、この「病院版アメーバ経営」が注目を浴びている。
アメーバ経営は、主に中小の製造業や上場企業などが導入する経営手法だが、数年前からは医療機関にも「稲盛信者」が登場し始めた。30施設以上がすでに導入済みという。甲賀病院長の冨永芳徳が経緯を語る。
「病院版アメーバ」で即V字回復!
「私が院長に就任したのは1991年のこと。以来、ほぼ継続的に黒字経営を続けましたが、その後、診療報酬のマイナス改定などによって年々経営が厳しさを増しました。08年度にはついに赤字に陥りました。しかし09年末に京セラ式を採用し、10年度には4億円以上、11年度にも3億円以上の経常利益を出すことができたのです」
いま公立・民間とも、経営に苦しむ病院は数多い。その原因は冨永が語った通り、診療報酬の低下による影響が大だが、景気悪化で人々が受診を抑えたことや、リニューアルした周囲の病院に患者を奪われるといったことも要因としてあげられる。
2013年春、甲賀病院に待望の新病院が完成。患者を増やすまたとないチャンスだが、その一方で新病院建設費の負担分、数十億円の返済という重荷も負う。
だからこそ院長・冨永は、不採算部門を担うなど公立病院の公共性を重視するとともに、赤字化した病院経営を一刻も早く健全化したかったのだ。「私立病院に負けない効率性と高い質の医療を提供したい」(冨永)。