では、京セラ式とは、具体的にはどんな経営手法なのか。

簡単にいえば、病院内の診療科、病棟、薬剤科、放射線科といった各組織が、それぞれ収入と支出を把握して、部門運営を行う仕組みだ。従来も病院は、内科・外科など診療科別の収支計算はしていたが、これで判明するのは診療科ごとの黒字・赤字だけ。看護師などコメディカルと呼ばれる医師以外の医療従事者が、どんな成果をあげているか知ることはできない。

通常、病院で働く人のうち、医師が占めるのはわずか1割。9割はコメディカル部門や事務系だ。つまり大多数が自分の仕事の収支はどうか、病院経営にどれほど貢献をしているかがわからない状態にあることになる。

「現役医師として日々現場に出ている私は、甲賀病院の職員は使命感が強く熱心に仕事することを知っています。ただ、経済性を発揮しながら働く、という意識が薄かったんですね。職員の経営意識を高めるため、各自が属する部門の採算度合いをわかるようにしたかった」(冨永)

そうやって改革に挑んだ冨永の頼みの綱が京セラ式の「院内協力対価」という独自のノウハウだ。病院の「収入」は医療行為によって発生する。当然それらは診療科の収入となるのだが、実際の医療では看護師などもサポートしている。そこで、協力してもらった対価を診療科が各部門へ支払うことにするのだ。その結果、「無収入」だった看護師などにも帳簿上、収入が発生することになる。

ナースステーションに掲示した「時間あたりの付加価値」グラフをチェックする看護師長の井原憲子さん。 

この「収入」と、組織ごとの「経費」や勤務した「時間」によって、「時間あたり付加価値」を算出する。その式は、(収入-経費)÷時間であり、財務会計など専門知識がなくても理解できる。家計簿感覚で自分の組織の経営状況を把握できるのだ。

「目標設定した“時間あたり付加価値”とその結果が月ごとにわかるので、組織が一丸となって目標をクリアしよう、付加価値の数値を少しでも上げようというやる気に満ち溢れました。特に高まったのは時短意識です。同じ手術でも医師と他スタッフとの連携がよくムダな時間を省けば、所要時間を2分の1にすることもできたんです」(冨永)

遅くても早くても手術費は同じゆえ、早くたくさんの手術をしたほうが、その分、収益は2~3倍と向上することになる。