整理、整頓、清潔、清掃、そして?
京セラ式には、「5S」と呼ばれる取り組みもある。すなわち、整理、整頓、清潔、清掃、しつけである。効率的に仕事をするために、例えば、ナースステーションなどをシンプルにすること、余計なものを入れ込まないことなどが徹底された。看護師長の藤本雅子はこう語る。
「モノを紛失しないことで私たち看護師部門の“付加価値”を上げられるんです。体温計など医療機器は皆小さくて、なくなりやすい。指にはさんで体内の酸素量を測る機器もそうです。小さいからどこかへ置き忘れることが多いし、電池の部分も壊れやすい。修理するだけでも2万~3万円もかかって、経費になってしまうから、時間あたりの付加価値も当然下がってしまうんです。それが悔しいから、『なぜ、なくなるのか』を徹底的に看護師で議論して、夜勤・日勤とも置く場所の定位置と機器の定数をしっかり確認するようになりました」
また以前はモノの配置に脈絡がなかったが、注射などの作業で使うことの多い材料をひとまとめに置くことで、モノを探しまわる手間と時間を省き、紛失のリスクを低くしたそうだ。
さらに、整理整頓することで、ふだんあまり使っていない衛生材料などがナースステーションに置かれるなど“死蔵在庫”を防ぐようにできたという。いわば家計簿でいう使途不明金が限りなくゼロになっていくのだ。
興味深いのは必死の取り組みで“付加価値”が高まっても、給料に直結するとは限らないのに、職員はなおも数値をよくする努力を怠らないことだ。
「残業時間を戦略的に減らすことで、自分の休み時間や日数が増えます。プライベートの時間が充実するので、より仕事に集中できるようになる」(藤本)
病院の最大の務めは金儲けではなく、患者へのケアだ。そのことを把握したうえで、前出のもう一人の看護師長・井原は収入とコストを意識する働き方が楽しいと、笑顔でこう語るのだ。
「最初は懐疑的だった京セラ式ですが、いまでは私のやる気スイッチです。以前は空きベッドがあまり気にならず、むしろ(患者が少なくて)ラクだなって。でもいまは、入院患者一人平均4万円の“収入”が失われてもったいないな、と思う。時間あたりの付加価値なんて初めはまるでピンとこなかったけれど、グラフなどで可視化されると面白くって。何より紛失ゼロで効率よく働くことが患者さんのためにもなると信じています」