ハイアールだけではなく、当時の中国企業の経営者たちの多くは、このようなレベルの従業員を戦力として、経営に行き詰まった企業を率いて、中国に進出してきた外資企業と戦わなければならなかったのである。

そのため、日本やアメリカ、シンガポールの企業経営方法を貪欲に学んだ。最初は日本の企業経営方法を学んだ中国の企業経営者が多かった。しかし、和を大事にする日本の経営手法は、中国の従業員にはあまり向いていないと判断し、より成果を重んじるアメリカの企業管理方法へと関心を傾斜させた。ただ、成果主義一辺倒にも問題がある。そこで、和洋折衷的なシンガポールの経営方法も中国の企業経営者の視野に入っていった。

こうした試行錯誤を重ねながら、やがて先頭を走る一部の中国企業が、次第に自国の企業風土に適した企業経営方法を樹立し、自らの企業文化も育て始めたのだ。

オオカミDNAを忘れるな

張瑞敏CEOの書斎には、稲盛和夫氏をはじめ日本企業経営者の著書もずらりと並んでいる。

中国の企業経営者のなかでも、張氏は読書範囲が広いことで知られる。事務所の横には、広い書斎があり、何列もある本棚には所狭しと本が並べられている。その範囲は、企業戦略、企業管理をはじめ企業の経営と関連のある多くの分野にわたる。アダム・スミスの『国富論』やアルビン・トフラーの『第三の波』や『未来の衝撃』、ドラッカーの数々の著書と並んで、松下幸之助や稲盛和夫の著書も数多い。

張氏の特別了解を得て、私は1人でその書斎を思う存分に見学したことがある。本棚に置いている本をチェックしてみると、本の随所に読んだあとの感想が書き込まれ、重要だと示す赤いアンダーラインが引かれているのを自分の目で確認した。

張氏は、松下幸之助、稲盛和夫をはじめ、日本の多くの企業家が書いた本を読んでいると笑顔で説明してくれた。「日本企業は尊敬すべきライバルでもあると私は思っています。中国企業は、これまで日本企業を手本に経営活動を行ってきました。これまで日本の大手企業の経営者とも接する機会がいろいろありました。稲盛和夫さんにも数回お目にかかったことがあり、心から敬服できる企業家の一人だと言いたいです。企業経営のみならず、人間としての教養、品格も優れている方で尊敬に値します。