高瀬は次々と例をあげる。顧客が搭乗口で記入する書類は従来、そこに常備しておき、終業後、担当者が回って補充した。搭乗口は多く、かなりの労力だ。
「この作業は必要だろうか」。素朴な疑問から業務が見直された。スタッフが搭乗口に向かう際、各自で必要分を持っていけばいい。余分な書類や補充のための人件費が削減された。
時刻表など、ロビーの各所に置かれる配布物も見直した。ロビーは端から端まで約1キロ。以前は、その都度補充しなくてすむよう、ケースに詰め込めるだけ詰め込んでいた。結果、廃棄が多かった。本当に必要な量を洗い出すと、廃棄は激減。発注量も変わった。高瀬が話す。
「以前は、廃棄に何の疑問も持ちませんでした。倒産してから『見える化』を全社で進め、書類1枚いくら、時刻表1部いくらと、すべての値段を見えるようにしたんです。今は経費を常に意識するようになりました」
フィロソフィの中に「正しい数字をもとに経営を行う」という言葉がある。「見える化」はその実践にほかならない。既存の「当たり前」が当たり前でなくなる。その気づきが地道な活動を支える。
「『強い持続した願望をもつ』。私はこのフィロソフィが好きです」
強いタッチの言葉をあげたのは、キャビンアテンダント(CA)歴16年、現在は指導係を務める垣貫妙だ。「みんなで強い願望を持ち、絶対復活してみせる」。垣貫がそう決意するのは、倒産直後、顧客から罵声を浴びることもあったからだろう。「だからおまえらは潰れたんだ」と少しミスするたびに罵られた。「毎日いわれ続け、(感情・神経が)麻痺してしまうくらいでした。何より、私たちを信用していただけないことがつらかった……」
と垣貫は目を伏せる。「復活してみせる」という強い思いは、CAたちをも徹底した経費削減活動に駆り立てた。機内に持ち込む自分の荷物の減量作戦ではオフィスに体重計を置き、「1日1人500グラム減」に取り組んだ。荷物が軽くなれば、わずかでも燃料節約に結びつく。泊まりがけの国際線担当のCAはシャンプーを毎回小分けにした。
「現地に着いてホテルから出ないときもあるので、以前は一通りのものを持っていったんです。今は疲れていても現地で買いましょうと意識を変えました」
荷物の重量の多くを占めていたのはマニュアルや報告書の類いだった。以前は、それぞれ自分用のものを持ち込んでいた。合わせると相当の重さになった。
「全員が持ち込むのは明らかに無駄です。そこで一通り揃った書類キットを用意し、フライトごとに1部ずつ貸し出す方式に変えました。報告書は使った分だけ補充し、用紙も薄くて軽く低価のものにしました」