何が起きれば、判定を更新するか

判定の精度を上げるのは、数字の奥にある条件への問いだ。いまの成長は、何によって生まれているのか。その条件は、次の3年も続くのか。いまの強みをさらに伸ばすことで、次の変化にも対応できるのか。こう問いを重ねていくと、議論は業績の数字から、その数字を生んでいる条件へと深まっていく。そのうえで、それぞれの判断を支えている事実と、判断が変わる条件を確かめていく。

私が経営陣と共有したいのは、一つにそろえた判定だけではない。何を根拠にそう判断したのか、そして何が起きれば判定を更新するのか。その2つまでを、経営陣の共通の言葉にしておくのである。

組み合わせのなかで、経営陣がとりわけ早く手を打つべきなのは、「産業は転換点、自社は頂点」という組み合わせである。業績が最も良いそのときに、次の局面への準備を始める好機が訪れているからだ。資金も人材も信用も、いちばん豊かにある。しかし古典は、この好機を生かすことが、いかに難しいかをも描いている。

トゥキディデスが見抜いた“落とし穴”

紀元前415年、アテナイの民会は、シチリア島への大遠征を議論していた。スパルタとの戦争はニキアスの和約でひとまず収まり、アテナイは海軍力も財力も充実していた。トゥキディデスの『戦史』第6巻は、その民会の様子を克明に描いている。若いアルキビアデスは遠征を力強く説き、慎重派のニキアスは思いとどまるよう訴えた。

アテネのアクロポリスとパルテノン神殿
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この場面で最も考えさせられるのは、ニキアスの2度目の演説である。彼は、遠征を成功させるにははるかに大きな兵力と資金が要ると説いた。要求を大きくすれば、人々が事の重大さに気づき、計画を取りやめると考えたのだ。

ところが結果は逆になった。トゥキディデスによれば、人々はニキアスの言葉を、成功を確かにするための助言として受け取り、遠征への熱意はかえって高まった。そして、内心では賛成できない者も、反対票を投じれば国家に忠実でないと見られることを恐れて、口をつぐんだという。遠征軍は130隻を超える三段櫂船を擁する大軍となって出航し、紀元前413年、シュラクサイで壊滅した。第7巻の結びでトゥキディデスは、多くの者のうち故郷に帰れたのはわずかだったと記している。