「ブラッサム」(NHK)は作家・宇野千代(1897~1996年)をモデルにした物語。宇野の自伝などを読んだライターの村瀬まりもさんは「作品から浮かび上がるのは、育ての母が、宇野に与えた影響の大きさだ。とくに暴君夫亡き後、一家を支える『女工哀史』さながらの姿は、彼女の人柄をよく表している」という――。

50年後も消えない18歳の苦い記憶

珠(石橋静河)「うち……幸せじゃった。しんどいときもあったけど、幸せじゃった」
リョウ(国仲涼子)「うちもじゃ。珠様と一緒におられて、幸せじゃった。これからは正真正銘、珠様の人生じゃけえね。胸張って生きるんよ」
「ブラッサム」第4週「岩国と、共に」
映画『ライラの冒険 黄金の羅針盤(THE GOLDEN COMPASS)』のジャパン・プレミアに出席した女優の国仲涼子(2008年2月21日、東京都目黒区の恵比寿ガーデンホール)
写真=時事通信フォト
映画『ライラの冒険 黄金の羅針盤(THE GOLDEN COMPASS)』のジャパン・プレミアに出席した女優の国仲涼子(2008年2月21日、東京都目黒区の恵比寿ガーデンホール)

私たちの記憶に残る晩年の宇野千代は、たとえバッシングされてもめげないタフな女性というイメージだが、初めから怖いもの知らずの“恋多き女”だったわけではない。

それがよくわかった「ブラッサム」第3~4週の展開。

まだ18歳、今なら大学1年生ぐらいの年齢の女性が社会に出て、同僚の若い男性と恋をする。18歳で彼氏の家にお泊まり、なんて、現在ならよくある話。むしろ親としては娘や息子がそのぐらい恋愛に積極的な方が安心したりするが、110年前の大正時代では、教師という職業柄もあって、とんでもない大スキャンダルに。「ふしだらな女」だと騒がれ、村八分になる勢いで後ろ指をさされるはめになったのだ。

宇野千代はあくまで「ブラッサム」(NHK)の主人公・葉野珠(石橋静河)のモデルだが、千代の故郷、山口県岩国で小学校の代用教員になった珠が同僚の男性と恋愛関係になり、懲戒解雇になったという展開は、史実に沿っている。それで周囲から白い目で見られるようになり、岩国にはいられなくなったというのも事実だ。

千代はそれから半世紀以上が経ち、70代になっても「私はふしだらな女として故郷の人から嫌われている」と気に病んでいたほどだ(刑部芳則『宇野千代 昭和モダニズムの伝道者』)。

山口県下関市の本州最西端・毘沙ノ鼻から望む海の景色
写真=iStock.com/Snowdrop
※写真はイメージです

岩国を出た千代が、向かった先

当時は何者でもない18歳の多感な少女。相当なダメージを受けたらしい。とにかく「人目につかない」ようにしなければと思い、岩国を船で出てまずは朝鮮半島に渡るが、相手の男性教師から絶縁状が届くと、彼に会いたくて会いたくて震えるようにしてわりとすぐに(半年ほどで)帰郷した(宇野千代『生きて行く私』)。

その後、「ブラッサム」第4週で描かれたように、14歳で最初の結婚をした従兄(いとこ)、藤村亮一の弟・忠と再会。忠の母である伯母にけしかけられるようにして婚約者的な扱いで、彼が京都三高の学生として下宿している京都へ行った。そして、1年あまり忠の生活をサポートした後、彼が東京帝国大学に合格し、共に東京へ移ったのだ。

岩国市の宇野千代生家
写真=Photolibrary/ロックカントリー
岩国市の宇野千代生家
【図表1】宇野千代の家族構成と結婚相手の家系図
※宇野千代顕彰会のサイトなどを参考に編集部作成