シュートを外したロボットは失敗作ではない
8月下旬、北京で第2回の世界人型ロボット運動会が開かれた。16の国と地域から、666チーム、2000体を超えるロボットが集まった大会である。日本でも、転倒する姿や、ぎこちない動きの映像が、テレビやSNSで目を引いた。中国のヒューマノイドが転び、ボールを扱いそこねる姿を見て、「まだこの程度か」と思った人もいるだろう。
ところが、この大会の51種目のうち4割を超える種目は、競技ではなく実務の課題だった。工場での組み立て、物流、飲食店での給仕、家事、災害への対応。笑いを誘う場面の隣で、ロボットたちは働く場面の試験を受けていたのである。
転んだ映像から、10年後の日本の工場で誰のロボットが働いているかまで判断できるだろうか。今日うまく動かないことと、明日の競争相手にならないことは、同じではない。ロボットを見るとき、私たちは「いま何ができるか」に目を奪われがちだ。しかし、本当に見るべきなのは、「できる仕事を増やしていく仕組みを、誰が持っているか」である。
この問いを考えるとき、思い出したい神話がある。神々に笑われた、一人の鍛冶の神の物語である。
神々に笑われた鍛冶の神
ホメロスの叙事詩『イリアス』の第1歌の終わりに、神々の宴の場面がある。オリュンポスの宮殿で、鍛冶の神ヘーパイストスが、神々の杯に甘い飲み物を注いで回る。ヘーパイストスは足が不自由だった。その彼が、息を切らしながら広間を行き来する姿を見て、神々のあいだに、止まらない笑いが沸き起こった。
この鍛冶の神は、人間に火を渡したプロメテウスを、ゼウスの命令で岩に縛りつけた、あの神でもある。拙著『古典で読み解く! 10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版)で人工知能を読み解いたプロメテウスの物語に、鎖を打つ役として登場する。
宴が終わると、神々はそれぞれの館へ帰って眠りについた。その館を造ったのは、足の不自由なヘーパイストスその人であったと、『イリアス』は記している。神々の宴で笑いを誘ったヘーパイストスは、その神々が住む宮殿を造った名工でもあったのである。目の前の動きに笑うことと、その者が持つ技術の力を見極めることは、別の話なのだ。


