9月21日、中国共産党は張又俠・中央軍事委員会元副主席と劉振立・同元委員の党籍剥奪を決めた。軍の最高指導部は7人のうち5人が失われたことになる。粛清によって習近平主席の統制はさらに強まるのか。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「日本の経営者にとっても、遠い国の話ではない」と指摘する。10月20日刊行の新著『古典で読み解く! 10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版)より、一部を紹介する――。(第11回)
全国衛生・健康大会で重要演説を行う習近平氏=配信日:2026年10月13日
写真=新華社/共同通信イメージズ
全国衛生・健康大会で重要演説を行う習近平氏=配信日:2026年10月13日

最も近い将軍まで排除された

2026年9月21日、中国は張又俠ちょうゆうきょうと劉振立りゅうしんりつの党籍の剝奪を決め、すでに決まっていた軍籍の剝奪とあわせて公表した。張は中央軍事委員会の第1副主席を務め、習近平国家主席の軍内の盟友とみられてきた人物である。劉は、作戦計画や指揮を担う統合参謀部の参謀長だった。

二人への調査は1月24日に発表されていた。9月の公表は、その処分を明らかにしたものだ。中国側は巨額の収賄や昇進への不正な関与とともに、派閥づくりや党への不忠実を挙げ、犯罪容疑を軍事検察機関へ移送するとした。個々の容疑の真偽を、外部から確定することはできない。

9月23日のロイター報道によれば、7人で構成される中央軍事委員会の最高指導部は、5席が空席となっていた。指揮機構は動いていても、その頂点で判断を担う顔ぶれは大きく失われていた。

味方が減ったのか、敵が消えたのか

田中道昭『古典で読み解く! 10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版)
田中道昭『古典で読み解く! 10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版)

重要なのは、習が軍を統率するために頼ってきた人物自身が、排除の対象になったことである。味方が減ったのか。それとも、競争相手がいなくなったのか。同じ人事が、見る立場によって違う意味を持つ。

拙著『古典で読み解く! 10年後の未来』(朝日新聞出版)で私が示したいのは、こうした出来事の奥にある「構造」を見る方法だ。序章では、出来事の流れを、人間の欲望や恐怖などの動因、始まり、成長、転換点、頂点、崩れ、終わり、反復性という8つの構成要素に分けている。なかでも注目したいのが、ある局面で力を生んだものが、次の局面では崩れの原因へ変わることである。

今回、その視点で開きたい古典が、司馬遷の『史記』「淮陰侯列伝」だ。淮陰侯とは、漢の成立に大きな功績を残した韓信のことである。