GMOインターネットグループの熊谷正寿社長は26日、傘下企業への不正アクセス問題で攻撃者側から5000万ドル(約80億円)の支払いを要求されていたと明らかにした。同社が支払いを拒否したところ、犯行グループは同日正午、顧客のうち1人のものとみられる個人情報を公開した。顧客を守るために、GMOは身代金を払うべきなのか。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「社内の専門家は改善すべき課題を事前に指摘していたが、対策は間に合わなかった。日本企業の多くが同じ構図を抱えている」と指摘する――。
フィジカルAIのイベントで話すGMOインターネットグループの熊谷正寿社長=2026年9月15日午後、東京都内
写真=共同通信社
フィジカルAIのイベントで話すGMOインターネットグループの熊谷正寿社長=2026年9月15日午後、東京都内

「顧客を守りたい」という思いが判断を縛る

10月27日正午、攻撃者が予告した時刻は過ぎた。予告されていたのは、顧客の情報の公開とランサムウェア攻撃である。GMOインターネットグループは12時30分に情報の公開を確認し、ランサムウェア攻撃は13時55分の時点で確認されていないと発表した。同社は要求に応じない方針を貫いている。顧客を守るために、身代金を払うべきなのか。

『孫子』九変篇は、将が陥る五つの危険の最後に「愛民は煩わさる」を挙げる。人々を思う情が、かえって判断を縛るというのである。守りたいという思いは、備えを遅らせる側にも、脅迫に応じさせる側にも働く。

攻撃者とみられる者は、27日12時に顧客の情報の公開とランサムウェア攻撃を行うと予告していた。GMOは13時55分の発表で、同日12時30分に情報の公開を確認したと説明した。顧客に関する情報と称するもので、内容は確認中、事実と異なる内容が含まれる恐れもあるとしている。

情報が公開されたことと、その内容が真正であることと、顧客の端末が実際に攻撃を受けたことは、分けて考えなければならない。同社は同じ発表で、ランサムウェア攻撃は13時55分の時点で確認されていないとしている。予告された二つのうち、一方は起き、他方はまだ確認されていない。

この区別は、しかし、顧客の不安を軽くするわけではない。自分の情報が出るのではないか。会社が金を払えば止まるのではないか。確認を待つ時間そのものが苦痛になる。その切実な問いを、経営は受け止めなければならない。

大事なのは金額の大小ではない

熊谷正寿会長兼社長は、攻撃者側から5000万ドルを要求され、支払いは行っていないと公表した。別途、10月27日正午を期限とする100万ドルの要求も報じられていた。金額の差は大きい。しかし、それだけで攻撃者の力が弱まったとも、不払いの判断が値下げを引き出したとも断定できない。要求の条件や相手の意図を、外から十分に確かめられていないからだ。

田中道昭『古典で読み解く! 10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版)

脅迫の内容も一つではなかった。第4報によれば、国内外70社を超える証券会社・FX会社に開設された取引口座への不正操作の継続、本サービスと接続した顧客の端末に関する情報の不正公開とランサムウェア攻撃、同社のシステムや運用体制に関する情報の不正公開という3つが並べられていた。影響の可能性があるサーバーは2万6739件とされるが、これは不正アクセスや情報取得が確認された件数ではない。

経営者が見失ってはならないのは、要求額の大小より、顧客への被害をどこで止められるかという問いである。

この問題を考える手掛かりが、『孫子』の九変篇にある。同篇は、将が陥る五つの危険を挙げる。死を恐れず突き進むこと、生き残ることへの執着、怒りやすさ、名誉へのこだわり、そして人々を思う情である。それぞれが判断を縛り、相手に利用され得るというのである。