森が動いてから疑っても、遅い

この物語を経営者の判断として読むと、一つの問いが浮かび上がる。自分の判断を支えている根拠を、いつ疑い直すか、という問いである。根拠を、それが成り立っていた条件ごと覚えている経営者は、条件が変わったことに早く気づける。根拠を、これからも続く保証として信じた経営者には、森が動くという知らせは、まずありえない話に聞こえる。マクベスが根拠を疑い始めたのは、森がすでに動き出したあとだった。経営陣との議論で、私はこう問いかける。いま守ろうとしているのは、会社が実現すべき目的なのか。それとも、自分たちを成功させた方法なのか。

本書の序章で、「構造」を見る目を持つ第4の意義として挙げたのが、「『構造』を知る者は、『構造』に飲み込まれない」だ。この意義を実務で生かすとは、分析の対象に、経営陣自身を含めることだと私は考えている。そのために、私は経営陣と3つのことを決めておく。自社の勝ち方が成り立っている条件を書き出すこと。その条件が崩れたときに最初に現れるサインを、あらかじめ名指ししておくこと。そして、局面の判定を、計画をつくるときの一度きりにせず、定例の議題にすることだ。森が動いたという知らせを、そのときになって解釈するのではなく、事前に意味を決めておくのである。

握手をするビジネスパーソン
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目的を受け継ぎ、次の「始まり」をつくる

局面の判定がそろったところで、議論をミッションとビジョンに戻す。ここで私は、2つの問いを分けて置く。一つは、この会社は何のために存在するのか。もう一つは、その目的を、次の局面ではどのような事業で実現するのか。

この2つを分けると、既存の方法を変えることの意味が、はっきりと変わる。方法を変えることは、目的を手放すことではなく、目的を次の局面でも実現し続けるための選択になる。ミッションを大切にする組織ほど、戦略を大胆に変えられる。古典で局面を読むことが、経営計画の具体的な選択につながるのは、この瞬間である。

そして最後に、8つ目の構成要素である⑧反復性に目を向ける。序章では、「一巡したとき、同じ『構造』が次のステージで再び動き始める」と書いた。ある事業を支えてきた条件が崩れる一方で、別の場所では、次の事業が始まる条件が整っていく。その変化を見つけ、自社の知識と人材をどう生かすか。そこに、局面を読む実務上の意味がある。

その始まりは、多くの場合、3つのものが結びつく場所に生まれる。顧客が抱えているまだ解かれていない課題。新たに使えるようになった技術。そして、自社が頂点に至るまでに蓄えてきた知識と人材である。頂点にいる会社は、その3つ目を最も豊かに持っている。だからこそ、頂点で局面を問う会社は、次の始まりを自らつくり出すことができる。

会議室で割れていた見立ては、ここまで来ると、一つの問いに向かっている。私たちはいま、どこにいるのか。そして、次の始まりをどこにつくるのか。経営計画の数字は、その問いに答えたあとで、はじめて意味を持ち始める。