中国が2009年に総額75億ドル(約1兆1800億円)で請け負った南米・ベネズエラの高速鉄道計画が、着工から17年たった今も列車が一度も走っていない事態となっている。一体何があったのか。海外メディアの報道から、その経緯をたどる――。
鉄道のレール
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中国企業のつなぎ姿で家畜を追う男

南米ベネズエラで、不思議な光景が目撃された。地元の男性が、鉄道建設に携わった中国企業のロゴが入る青いつなぎを、誇らしげに着ている。だが、男は鉄道建設に従事している訳ではない。崩れた建屋のあいだで、今日も家畜を追っている。なぜか。

同国中部に位置する、ザラザの町。2016年5月にAP通信が報じたところでは、かつて高速鉄道の建設のためコンクリート製の枕木を造っていた工場は、すっかり廃墟となっていた。跡地では、瓦礫の隙間から生えた草を牛がはんでいる。

つなぎ姿の男は、元従業員のオマール・コレア氏。打ちひしがれた様子でAP通信の取材に応じた彼は、「彼ら(中国人の雇い主)は戻ってくるのか」と逆に尋ねる。「あの列車が走るのを、いつか見たいと本当に願っていたのに」。

彼が走る姿を待ち望んだ列車の路線こそ、「社会主義の友愛の模範」とうたわれ南米初の高速鉄道を目指した「ティナコ―アナコ鉄道」だ。

2009年、当時のウゴ・チャベス大統領は中国の資金と技術を頼りに、この鉄道の建設に乗り出した。現地では今、中国語とスペイン語で書かれた赤い門だけがかつての事業の勢いをとどめているが、その一部はすでに風化し骨組みが剥き出しになっている。門の奥が、800人の働く活気ある施設だったのは、2015年1月までのことだ。同月、中国人の管理者たちは皆、ひっそりと姿を消した。

計画はあえなく頓挫し、そのしわ寄せがいま、融資した中国に及んでいる。

全長468キロを3時間で結ぶはずだった

中国は鉄道などの事業資金をベネズエラに融資し、返済は原油現物で受け取ってきた。米地政学専門メディアのGZEROによると、未返済分は少なくとも100億ドル(約1兆5800億円)にのぼるという。ところが2026年1月、チャベス氏の後継者マドゥーロ氏が、アメリカの軍事作戦で拘束された。その後に樹立された暫定政権がアメリカに急接近したことで、中国は融資を回収するめどが立たなくなりつつある。

朽ち果てたこの鉄道にも、華々しい幕開けの日があった。

2009年3月22日、チャベス氏は、ザラザと同じグアリコ州のエル・マモンシートで着工式に臨んだ。式では最初のレールが据えられ、その模様は自身が司会を務めるテレビ番組で伝えられた。「北部平原軸の大鉄道だ」と、チャベス氏は意気揚々と語った。

中国の張拓(ジャン・トゥオ)駐ベネズエラ大使は、建設を国有企業の中国中鉄(CREC)に任せたチャベス氏に、同社を信頼したことへの謝意を表し、「あなたは正しい決断をした」とも強調している。中国中鉄の白中仁(バイ・ジョンレン)副総裁(当時)も「最高の品質と最高の速度で完成させる」と胸を張り、技術移転を約束したうえ、枕木や車両、レールの製造についても協議すると述べた。

路線は、西のコヘデス州ティナコから東のアンソアテギ州アナコまで、全長468キロ。最高時速220キロの列車が、東京-名古屋間より100キロあまり長い道のりを、3時間で走り抜ける見込みだった。計画の狙いは、人口と産業が集中する北部の沿岸部をあえて避け、国の「空っぽの心臓部」を発展の拠点に育てることにあったと、ベネズエラ調査報道メディアのアルマンド・インフォは説明する。

同年7月、中国中鉄はベネズエラの国家鉄道公社と、総額75億ドル(約1兆1800億円)の契約を交わした。建設資金を中国が融資し、ベネズエラは原油で返済する仕組みだ。完成予定は2012年。ところが着工から2年足らずで、工事は早くも1回目の中断に見舞われることになる。