朝まで元気だったのに…忍び寄る血管の危機

秋から冬の気配を感じるような気候になるとき、私は救急現場での密着取材を思い出す。7年前、今と同じ10月だったのだが、1日に8人も脳出血を起こした患者が運び込まれてきたのだ。その模様を執筆した当時の記事(『文藝春秋』2019年1月号)から、意識不明の50代男性を搬送した救急隊の言葉を引用しよう。

〈ゴルフ場の打ちっぱなしで、ベンチで座ったままいびきをかいて寝ていたそうです。隣のレーンの人がうるさいなぁと思って、しかし30分経ってもいびきをかいていて……やがてベンチからずり落ちていったのでこれはおかしいと。ゴルフ場の受付に報せて、救急車を呼んだとのことでした〉

この男性は、CT撮影で私が見てもはっきりわかるほど脳内に大量の出血があった。しかも呼吸などをつかさどる脳幹部からの出血で、脳の手術を行うなどの積極的な治療は見送られることになった。手術をしても命が助かる見込みが非常に低いためだ。病院からの連絡で男性の家族も駆けつけたが、その青ざめた顔が今でも忘れられない。つい今朝方まで元気だった人が、突然意識不明となり、医師から「厳しい容態」だと告げられるのだ。

このように脳出血や脳梗塞は、一見健康そうな人が次の瞬間に意識不明になる病気ともいえる。人気お笑いコンビのサンドウィッチマンの伊達みきおさんも8月、脳梗塞を発症したことを公表している。

「大まかに、脳卒中全体の4分の3が脳梗塞、4分の1が脳出血といえるでしょう」

と、国立循環器病研究センター副院長で脳神経内科部長の猪原匡史医師が説明する。

「ですから脳梗塞のほうが発症頻度は高いですが、発症年齢の平均は脳出血のほうが若い。50代での脳出血発症は少なくありません」(以下同)

脳出血も脳梗塞も、原因を挙げるなら「圧倒的に高血圧」と、猪原医師。健康診断を受ける人が多い時期だが、血圧は大丈夫だっただろうか。

「脳出血は血圧が高くて血管が破れる病です。脳梗塞も高血圧によって動脈硬化を招いている血管に血栓が詰まり、血流が途絶えてしまう病気ですから、やはり血圧の高さが関係します。高血圧ガイドラインでは、家庭で測る血圧が一番大切とされています。家で落ち着いて測ったとき、また1週間の平均値が高ければ、それはもう高血圧です」

高血圧の診断基準は「診察室血圧140/90mmHg以上、家庭血圧135/85mmHg以上」だ。さらに年齢によらず、降圧目標は「診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満」である。

(イラストレーション=PIXTA)

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