自分から一番遠い辺境を選ぶべき
とくに目的がなくても、ただ海外をブラブラするだけでもいい。できれば自分と物理的にも心理的にもいちばん離れた場所に行くのがいいです。これはぼくが探検部の先輩たちから受けた薫陶です。
韓国とか台湾は利回りが低い。アフリカとか南米とか、離れていればいるほど投資のリターンが大きいんです。それらの辺境は日本人の価値観からも遠く離れている。だから得るものも大きい。心理的な遠さで言えば、中国も超オススメです。日本人の価値観から離れているし、ぶっ飛んでいて面白い。
海外の辺境は昔に比べて旅しやすくなっていますよ。スマホが普及しているし、街頭カメラも多い。配車アプリもあるから、安全・確実に移動できる。
とはいえ、口論になる、食事でおなかを下す、飛行機が飛ばない、大雨で道路が寸断される、予定通りに帰国できないなんてこともあるでしょう。まぁリスクと言ってもその程度です。ただその経験が、40代、50代になって、デカいリターンとして返ってくる。
ぼくの場合は30代のときの『アヘン王国』も『西南シルクロードは密林に消える』も、元気のよさと勢いで書いていた面があったんです。デビュー作の『幻獣ムベンベを追え!』も、アフリカ専門の雑誌に「所詮学生の探検ごっこ」と厳しく評されました。見る人が見たら私の30代はその延長だったのかもしれません。
ようやく30代の投資が返ってきた
でも、30代を振り返って良かったと思うのは、本が売れなくても、評価されなくても、辺境に足を運び続けたこと。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」という自分が信じたスタイルを貫いたことです。
途中であきらめていたら堀内さんと出会うことも、『謎の独立国家ソマリランド』で賞をいただくこともなかったし、「学生の探検ごっこ」と書いた雑誌を見返すこともできなかった(笑)
「ソマリランド」は40代後半くらいから、書き手としての自分のケツをもう一回たたくというか、難しいことを意図的にやろうとしたんです。学術的な先行研究や、その情報源にも慎重に気を配るようになった。30代の経験をいかして、勢いだけに頼らない意識と技術を入れ込んだのが、評価されたのかもしれないですね。30代の投資が40代になって返ってきた。60歳が間近になり、そう感じているんです。
ただ、先日、世阿弥の『風姿花伝』を読んでいたら、30代のトラウマがよみがえりました。世阿弥は30代を人生のピークと考え、こんなふうに書いていました。
〈この時分に、天下の許されも不足に、名望も思ふ程もなくば、いかなる上手なりとも、いまだまことの花を極めぬ為手と知るべし〉
〈この頃天下の許されを得ずば、能を極めたりとは思ふべからず〉
つまり30代でメジャーになれなかったら、その人は二度と日の目を見ることはない、と。暗黒期を思い出して、ゾッとしました。もしも30代のぼくが読んでいたら、絶望していたかもしれません。暗黒期に読んでいなくて本当に良かった(笑)。
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます



