なぜ人は旅をするのか。技術革新により、簡単に世界各地のリアルな情報を手に入れられる時代である。世界の辺境をテーマに作品を出し続けるノンフィクション作家の高野秀行さん(59)は「未知の土地への旅は正直しんどい。それでも外に出ないと気づけないことがたくさんあるから面白い」という。『メソポタミアのボート三人男』(集英社)の刊行を機に聞いた――。(インタビュー・構成=ノンフィクションライター・山川徹)
ノンフィクション作家の高野秀行さん
撮影=西田香織
ノンフィクション作家の高野秀行さん

コンゴの謎の怪獣から始まった辺境の旅

――高野さんは、早稲田大学在学中にコンゴで幻の怪獣を探すノンフィクションでデビューしました。ミャンマー北部、反政府ゲリラの支配区にあるアヘン生産地帯に潜入したり、最近ではイラクにある政府に抵抗するアウトローや迫害されたマイノリティが逃げ込む湿地帯を旅したり……。できれば足を踏み入れたくないような地域へあえて向かい、作品にしているのは、なぜなのでしょう。

【高野】単純に未知の世界に行ってみたいという好奇心ですね。40年近く前から「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」をモットーに、辺境をテーマに執筆を続けてきました。

ぼくは子どもの頃から雑誌「ムー」やテレビ番組「川口浩探検隊」が好きで、未確認とか謎の世界を探してみたくて、早稲田大学の探検部に入りました。それが全ての始まりでしたね。

探検部の活動として太古の昔からコンゴ人民共和国(現在はコンゴ共和国)のジャングルの奥にある湖に棲息するというモケーレ・ムベンベという謎の怪獣を探しに行ったんです。そんなのいるはずがないと思う人もいるでしょう。でも当時、「国際未知動物学会」という世界中の怪獣の調査をしている、これまた謎の学会があって、その学会ではネス湖のネッシーと並ぶ一大テーマとしてモケーレ・ムベンベをとても注目していたんです。

それに、まだ1980年代後半で、社会主義国家だったコンゴは閉ざされた国だった。辺境過ぎて日本語はもちろん、英語の資料もほぼない。これは子供の頃にあこがれていた怪獣探検そのものじゃないか! 興奮した私をはじめとする探検部11人による探索行をまとめたのが、89年に刊行した『幻の怪獣・ムベンベを追え』(現在は『幻獣ムベンベを追え』・集英社文庫に改題)です。

こんな感じで辺境を追い求めると、そこは情報が非常に乏しいので、結果的に人が行きたがらない地域を旅することになるんですよ。