「地を這う取材」よりも低い旅

――近著『メソポタミアのボート三人男』では、トルコ南東部のティグリス=ユーフラテス川上流域をボートで旅しています。その動機も謎と未知の探求ですか?

ティグリス=ユーフラテス川やメソポタミア文明って、超メジャーですよね。みんな中学時代に習って名前だけは知っているけれど、実際に旅する人なんていなかったんです。

というのも、ティグリス=ユーフラテス川の上流部にあるトルコ南東部は、長年、「PKK」(クルディスタン労働者党)という反政府ゲリラが活動する拠点で、トルコ政府が外国人を入れたがらなかったからです。ただでさえツーリストが少ない上に、ましてや川ですからね。調査したり取材したりした研究者やジャーナリストなんて誰もいない。未知性に惹かれて、ティグリス=ユーフラテス川を下ろう、と。

何より、川旅って面白いんですよ。よく「地を這う取材」と言いますが、川は「地」よりも低い。なので、いちばん底辺から見る旅になるんです。

旅を始めてから8年かかってようやく完成した『メソポタミアのボート三人男』。
撮影=西田香織
旅を始めてから8年かかってようやく完成した『メソポタミアのボート三人男』。

徒歩や自転車、自動車、電車などの移動手段では、当たり前ですが道路を使い、町から町へと移動します。村だと道路は高い場所につくられていることが多く、クルマは車高がある。地元の人たちからすると見下ろされる感覚になり、警戒される。だから何もない小さな村を突然訪れたら、「お前は何をしにきた」と不審がられてしまう。

トルコで私は「カッパ」だった

一方で川は一番低いところを流れている。そこから村に上がるので、警戒されにくい。ツーリストどころか、ジャーナリストや研究者も行かない川岸の村と村をつなぐように、ボートで旅をすることができました。

とはいえ、びしょびしょで生臭いサンダル履きの日本人の男2人が川から突然あらわれるわけです。村人は驚いたでしょうね(笑)。でも、同情してくれたのか、「泊めてほしい」というお願いも自然に受け入れてくれます。

川旅では土地も人も知識もいろいろなものがつながった、という発見を語る高野さん。
撮影=西田香織
川旅では土地も人も知識もいろいろなものがつながった、という発見を語る高野さん。

――現地の人からすると、高野さんを未知の生き物のように感じるんじゃないですか。

そうなんです。アメリカでは黒装束の男たちが何もない田舎にあらわれて、トンチンカンなことを言って突然立ち去る「メン・イン・ブラック」という都市伝説があります。異星人か、未来人か、あるいは地底人か、と言われています。ただ、ぼくは、川旅を経験して、「メン・イン・ブラック」は川旅の人じゃないかと思いましたよ(笑)。

カッパも、きっと同じです。食料品をもらったカッパがびしょ濡れのままペタペタと湿った足跡を残して、川へ消える。完全にぼくらと同じですから。