親に感謝を伝えたい。どんな贈り物なら喜んでもらえるだろうか。ツーリズム業界に30年近く携わる旅行作家の野添ちかこさんは「親子で過ごす温泉旅をプレゼントするといい。あとになって振り返ったとき、かけがえのない思い出になる」という。野添さんが、「親に贈りたい」をテーマに選んだ関東の温泉宿を3軒紹介する――。

親に贈る温泉旅、宿選びの7つの視点

「親が元気なうちに、一緒に旅に出たい」

そう思いながらも、日々の忙しさに追われているうちに、なかなか実現できない人は多いのではないだろうか。親子で過ごす温泉旅は、あとになって振り返ったとき、かけがえのない思い出になる。

今回は、首都圏からアクセスしやすく、紅葉を楽しめる温泉宿の中から「親に贈りたい宿」をテーマに旅行作家の野添ちかこ(筆者)が3軒を厳選した。いずれも、階段の上り下りに大きな支障がなく、古い日本家屋の趣や紅葉を楽しみたい親との旅を想定している。

便宜上、親を連れていくことを想定した7項目で、4段階の評価をつけたが、優劣を競うためのものではない。温泉宿にはそれぞれに異なる魅力があり、同じ土俵にのせて順位をつけることは難しいと考えている。また、親の好みや体力、旅に求めるものによって選ぶべき宿は変わる。

たとえば「館内の移動」に関して、趣ある日本家屋の風情を楽しみたければ段差はあり、バリアフリーは望めないことが多い。しかし、昨今の温泉宿事情を見渡すと、布団からベッドへ変更し、囲炉裏料理はテーブル席にリニューアルされている。足腰の弱った高齢者でも快適に過ごせるよう配慮されていることが多く、以前より「趣と快適性」が共存できるようになった。温泉宿選びの参考にしていただければ幸いである。

※◎=3点、○=2点、△=1点、×=0点
※各項目の評価基準は記事末尾に記載

渡り廊下から気軽に紅葉が見られる

【法師温泉 長寿館(群馬県・法師温泉)】

近代化した宿には出せない、そこはかとない色気。それがこの宿にはある。木枠の窓から眺める紅葉は、まさに一幅の絵だ。もっとも、それは美術館に飾られた名画ではない。私には、心の奥にしまった、懐かしい風景を描いた油絵のように思えた。

親への感謝を形にしたいときに、ぜひ「法師温泉 長寿館」を選んでほしい。

玄関を入ると、しめ縄を張った神棚がまつられている。囲炉裏の間では炭火がはぜ、白い煙があがっている。本館の2階へ上がると、立派な梁や柱が出迎えてくれた。

棟と棟とをつなぐ渡り廊下の窓からは、赤や黄色に色づいたモミジが心を和ませてくれる。「廊下の窓枠が絵になる宿」というのは、かなり希少ではないかと思う。

渡り廊下から眺める色づいたモミジ
筆者撮影
渡り廊下から眺める色づいたモミジ

湯船の趣もまた格別である。

名物は、洋風の趣をもつ登録有形文化財の「法師乃湯」。アーチ型の窓が特徴的で、高い天井には杉の丸太梁まるたばりが通されている。4つに区切った栗の木の浴槽にも枕木用の丸太が渡されていて、8つの風呂に見える。

泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉。やわらかな肌触りの温泉は、しっとりと肌を潤す化粧水のよう。

この湯船が秀逸なのは、生まれたての温泉が湧くその場所に湯小屋が建てられている、という点だ。この湯が多くの温泉ファンを惹きつけてきたのは、湯の質はもちろん、その使い方、空間の趣までトータルですばらしいからだと思う。

法師乃湯
筆者撮影
法師乃湯