箱根より東京に近い、里山の宿

【元湯 玉川館(神奈川県・七沢温泉)】

2軒目に紹介するのが、神奈川県厚木市の「元湯 玉川館」。東京から最も近い温泉地の一つとして知られる七沢温泉の最奥に佇む一軒宿だ。

首都圏近郊の温泉地といえば箱根や熱海を思い浮かべる人が多いが、七沢温泉は距離でいえば、それらの温泉地よりもさらに近い。「移動時間はできるだけ短くしたい」という人にはうってつけの温泉宿だろう。

趣ある純和風の建物は、古くから文人墨客に愛されてきた。歴史や文化を感じる滞在を好む親世代にもきっと喜ばれるはずだ。一方で、木造建築ゆえに館内には階段も多く、足腰に不安のある人にはやや不向きかもしれない。

ロビーラウンジから庭を眺める
筆者撮影
ロビーラウンジから庭を眺める

宿の創業は安政2(1855)年。明治35(1902)年には、現オーナーである山本家の初代が「医師が常駐し、お客様の健康相談にのる宿屋を開こう」という心意気で、この宿を引き継いだという。

この宿は江戸時代から地域の人々が農作業の合間に訪れる湯治場として親しまれ、「くすり湯」とも呼ばれてきた。“古民家移築の宿”の先駆けでもあり、戦後には神奈川県厚木市や東京都町田市の農家を移築して現在の姿となった。

落ち着いた雰囲気の客室
筆者撮影
落ち着いた雰囲気の客室

食が細い親には「料理控えめプラン」も

昭和初期には、多くの文人墨客がこの宿に逗留している。漫画家・田河水泡は『のらくろ』を、小説家・山本周五郎は『金作行状記』をこの宿で執筆したという。

温泉はpH10.1の強アルカリ性。つるつる・ぬるぬるとした独特の肌触りが特徴だ。アルカリ性の高い温泉には、皮脂汚れや古い角質を落とす石けんのような作用があるとされる。

源泉は冷鉱泉のため加温・循環ろ過を行っているが、そのなめらかな浴感は健在。総檜造り・漆塗りの湯船には大きな窓が設けられ、11月中旬から12月中旬にかけて、色づく木々を眺めながら湯浴みが楽しめる。

浴室は男女別浴室がそれぞれ1つずつ。窓の外に色づいた木々が見える。現在は床はタイルに変更されている
写真提供=元湯 玉川館
浴室は男女別浴室がそれぞれ1つずつ。窓の外に色づいた木々が見える。現在は床はタイルに変更されている

「モミジはありませんが、クヌギやコナラなどの落葉樹が多いので、秋らしい景色をお楽しみいただけます」と5代目館主の山本健二郎さんが言う。

夕食では、特製の味噌仕立てでいただく名物の「猪鍋」を味わえる。臭みがなく上品な味わいで、たっぷりの野菜とシイタケの相性も抜群だ。食が細くなった女性や高齢者向けに「料理控えめプラン」が用意されているのも魅力。料金も基本プランより抑えられているので、利用しやすい。

名物は「猪鍋」。秋の食材をふんだんに楽しめる
写真提供=元湯 玉川館
名物は「猪鍋」。秋の食材をふんだんに楽しめる

都心から近いため、宿泊だけでなく日帰り利用もしやすい。レトロな雰囲気のカフェでコーヒーを味わったり、昼食付きプランを利用するのもおすすめだ。

館内にある日帰り利用ができるカフェ
筆者撮影
館内にある日帰り利用ができるカフェ