いまもあの時代のトラウマがつきまとう

間違いなく暗黒期を抜けられたきっかけは『ワセダ三畳青春記』でしたが、いまもあの時代の記憶はつきまとっています。

少しでも気を抜くと、足元をすくわれて、あの暗闇にまた落っこちるんじゃないかと不安になる。いえ、不安というより、恐怖といったほうがいいかもしれない。

いまだに、どんなにいいことがあっても浮つかないし、ぬか喜びもしない。むしろ、いいことのあとにどんなどん底が待っているのかと、警戒するクセがついてしまった。

だから、今回の作品の出来はいま一つだけど次に頑張ればいい、なんてことは絶対に思いません。気も抜かず、手も抜かずに、毎回、全力を尽くす。暗黒期のトラウマが、それだけ心に深く刻み込まれているんです。

「20代で売れなくてよかった。学びもせずに、楽な方向に走っていたでしょうね」(高野さん)。
撮影=西田香織
「20代で売れなくてよかった。学びもせずに、楽な方向に走っていたでしょうね」(高野さん)。

NISAよりiDeCoより、いい投資

今年で60歳になるぼくから見たら、30代なんてまだ若い。元気もあって感性も柔軟だった。いまぼくと同じ暗黒期にいる30代の読者もいるかもしれません。そんな人には、海外に出てほしい。

いま若い人の間で投資が流行っていてNISA貧乏なんて言葉も聞きますが、ぼくは日本を出ることこそが、いちばん堅実な投資だと思うんですよ。NISAやiDeCoを積み立てる前に自分自身に投資すべきなんじゃないか、と。

日本にはたくさんの外国人が暮らし、働いています。これからは、いま以上に外国人と関わらずに生きていくことも、仕事をしていくことも、難しくなっていくはずです。

日本の価値観が世界のすべてではない。もっと言えば、価値観は日本と海外の2つだけではない。世界には何十、何百もの価値観がある。それに気づくだけで、社会の見方や考え方が大きく変わります。やっぱり、彼・彼女らが何を考えているのかは、日本にいるよりその人が生まれ育った国に行った方がよくわかる。