※本稿は、越川慎司『17万人の分析データから導き出した トップ5%社員の感情に振り回されない習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
トップ5%社員は「緊張」を活かす
大事なプレゼンの前、重要な交渉の直前、大型案件の最終提案。プレッシャーがかかる場面で、95%社員の多くは「緊張しないようにしよう」と自分に言い聞かせます。弊社が11社で行った調査では、プレッシャーがかかる場面で「緊張を抑えよう」とする社員は79%でした。
しかし、この「緊張を抑えよう」というアプローチ自体が、感情マネジメントの観点からすれば逆効果であることが明らかになっています。
社内評価トップ5%に入る社員は、まったく違うアプローチを取っていました。彼らの82%は、プレッシャーを感じたとき「これは自分にとって大事な場面だから緊張している。それだけ本気だということだ」とリフレーミングしていたのです。
緊張のときに分泌されるアドレナリンは、心拍数を上げ、視野を狭め、反応速度を上げます。プレゼンや交渉では、これらの生理反応はマイナスではなく、むしろパフォーマンスを支える側に働きます。
心理学者ジェームズ・グロスの感情調節モデルによれば、感情への対処戦略には「感情が生まれる前にその解釈を変える(認知的再評価)」と「感情が湧いた後でその表出を抑える(抑制)」の2種類があります(注1)。
研究では、認知的再評価(リフレーミング)は、感情の抑制に比べて、精神的健康への負担が少なく、長期的なパフォーマンスの安定に寄与することが示されています。「緊張しないようにしよう」という抑制アプローチよりも、「この緊張は本気の証拠だ」というリフレーミングが、長期的に有効なのです。
注1:James J. Gross/1998年/Journal of Personality and Social Psychology, 74(1), 224-237
「脅威」を「挑戦」に置き換える理由
さらに、ハーバード大学のブルックスは、本番直前に「落ち着け」と自分に言うより「ワクワクしている」と言い換えた方が、スピーチ・歌・計算の成績が有意に上がることを実験で示しました(注2)。同じ高揚した身体状態を「不安」と呼ぶか「興奮」と呼ぶかで、結果が変わるのです。
リフレーミングとは、出来事に対する「枠組み」を変えることです。同じプレッシャーでも、「つらい」と捉えるか「やりがいがある」と捉えるかで、身体の反応が変わります。
弊社がウェアラブルデバイスで計測した結果では、プレッシャーを「脅威」と捉えた社員は、心拍数の急上昇とHRV(心拍変動)の低下が顕著で、自己申告のストレス強度も平均で2.4倍高い数値を示しました。
一方、「挑戦」と捉えた社員は心拍数の上昇が穏やかで、HRVの低下も小さく、むしろパフォーマンスが向上するゾーンに入っていたのです。
「脅威」と「挑戦」のラベルは、自律神経系に異なる指令を送ります。脅威は防御モード(血管収縮・思考の硬直)、挑戦は対処モード(血管拡張・思考の柔軟性)。ラベルの選び方が、生理反応そのものを切り替えます。
注2:Alison Wood Brooks/2014年/Journal of Experimental Psychology: General, 143(3), 1144-1158

