本にちりばめられた知を拾い読みで吸収する
「一冊の本を読み通す集中力がなくなった」といった悩みをよく聞きます。インターネットのある環境では余計なものを見てしまう機会が増え、スマホが身近に存在することで気が散りやすくなりました。今、集中力が続かないことを前提にした、新しい本の読み方が必要になってきたのかもしれません。
佐々木俊尚 Toshinao Sasaki
1961年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、「月刊アスキー」編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』(東洋経済新報社)など著書多数。
ウェブで多くの情報が得られるこの時代、本の長所とは何でしょうか。それは、一冊の中に情報が集約されて網羅されているため、そのテーマの全体像を摑みやすい点だと思います。出発地がどこで目的地はどこか、いわば航海の全容がわかりやすいのです。
その本にも2種類あると私は考えます。それは「自分の価値観や世界観をアップデートしてくれる本」と「実用的な知識を得るために読む本」です。多様な視点を与えてくれるという意味では、どちらの本にも素晴らしい出合いがあります。ただし目的が違うのですから、読み方は異なります。
前者の本は、拾い読みをしていては神髄を得られません。本質的な部分が抽象的な文章で説明されていることが多く、丁寧に熟読することで初めて価値観のアップデートに結びつくからです。出発地から最終目的地まで寄港地にも寄りつつ、全容を知らなければ、読んだことにならないのです。
一方、後者の本はその全航路を乗り通す必要はありません。「本にちりばめられている知の断片を吸収する」と考え、必要な部分だけ拾い読みすればいいのです。そうすれば一冊の本に充てる時間を短縮できるので、他の本を読む時間を捻出できます。
後者のような本から知識を得ようとする際には、知りたい情報を事前に整理しておくことが必要です。「すでに知っていること」「全く知らないこと」「ある程度知っているがさらに知りたいこと」を仕分けするのです。自分の理解度を把握しておくと物事を進めやすいのは、ウェブの検索やAIに何かを尋ねるときも同じです。
本を手に取ったら最初に前書きやプロローグを読み、その本がどんな知を伝えようとしているか全体像を把握します。次に目次と見出しに目を通して、知っている部分と知らない部分に仕分けます。そのうえで既知の箇所は斜め読みし、未知の部分だけ読みながらメモを取っていきます。
キンドルで読むことが多い私の場合、手書きでメモを取らず、大事だと思った部分をハイライトにしておきます。ただし、書籍に蛍光ペンを引く作業のように、それだけでは記憶に定着しません。そこでハイライトにした部分はコピペして、メモアプリに整理しておきます。
すべてのメモを覚えておくのは無理ですから、断片的な短い要約だけを記憶しておくだけでかまいません。必要になったとき「あの本にこんなことが書いてあったな……」と思い出せれば、メモアプリから参照して引っ張り出せばいいからです。「頭の中には断片的な要約さえ残っていればいい」と割り切るべきですし、それすらできないのであれば、本から情報を得るのは向いていないと言えるでしょう。
いざ本を読み始めると、文体や表現が自分に合わない本もあります。20〜30ページ読んでみて辛いと感じたら、「ここまで読んだのに惜しい」「せっかく買ったのだからもったいない」と思わず、諦めたほうが賢明です。経済の世界には、回収できない費用に執着して事業を続けると損失がさらに広がる「サンクコスト効果」という現象があります。同様に無理して全部を読もうとすると、その先の時間まで無駄になると考えればいいのです。
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