タレントの島田紳助が暴力団関係者との交際を理由に芸能界引退を宣言し、話題を呼んだのは11年8月のこと。

「背景にあるのは、目の前に迫っていた東京都暴力団排除条例の施行です」

こう指摘するのは、東京弁護士会の民事介入暴力対策特別委員会委員長を務める園部洋士弁護士だ。

暴力団排除条例(暴排条例)は10年施行の福岡県を皮切りに各道府県で整備が進み、11年10月に東京都と沖縄県が施行したことで全国を網羅。大きな特徴は、暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)とは異なり、暴力団を利用するとか活動を助長するような商取引を行った企業や一般人まで規制の対象にしたことだ。

企業や個人が暴力団と密接な関係を持っていると判明した場合、「共生者」「密接交際者」に該当するとして、関係遮断の「勧告」を受ける。勧告に従わないときは企業名や氏名が公表されるのだ。

条例施行から1年以上が経過した福岡県では、建築関連業者が主催していた業界内のゴルフコンペに暴力団組長らが定期的に参加するようになったことから、参加していた業者の多くが「暴力団関係者」として県に通報され業者名を公表された。そのため公共工事の受注から締め出され、ゼネコンからの契約も解除され、廃業・倒産する会社も出た。コンペでは組長らは金融業者と名乗っており、勧告を受けるまで彼らが暴力団関係者とは知らなかった者もいるという。

そうはいっても、一般市民とは縁遠いことだと感じる人もいるだろう。本当にそうだろうか。

「暴排条例では暴力団や暴力団と関係するフロント企業に対し、通常の価格で物品を販売するとかサービスを提供することも、暴力団員への『利益供与』に該当します。また、個人としては、取引から排除される暴力団員への『名義貸し』にも気をつけなければなりません」(園部弁護士)

暴排条例の施行を受けて、金融機関や不動産業界等では「反社会勢力に属すると判明した場合、催告することなく契約を解除できる」という「反社会的勢力排除条項」の各種契約文書への導入が進んでおり、暴力団関係者は銀行取引や不動産取引等から排除されている。つまり、暴力団組員は部屋も借りられず銀行口座も開けないのだ。

窮した組員は、家族や知人からの「名義借り」に走ると思われる。だが、暴排条例では名義を貸した側も条例違反に問われるし、場合によっては詐欺罪に問われるケースもあるという。「要注意」どころの話ではないのである。

林・園部法律事務所 弁護士 園部洋士
1965年、茨城県生まれ。水戸第一高校、明治大学法学部卒業。同大学院修了。2011年から東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会委員長。同委員会編『暴力団排除と企業対応の実務』が発売中。
(久保田正志=構成 浮田輝雄=撮影)
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