健康増進法などの施行により、飲食店や職場での分煙が義務づけられるようになっている。それにともない、住宅地でもタバコの副流煙に関するトラブルが増えてきた。家の中では吸えなくなった喫煙者が戸外へ出て吸うのだが……。

「最近多いのは『マンションのベランダで下の階の人が吸うタバコの煙がこちらの部屋に流れてくる。やめさせられないか』という相談です。ただ、屋外で吸ったタバコの煙により算定可能な程度の損害が発生している、と裁判所がみなす可能性は低いと思います」(梅原ゆかり弁護士)

たとえば訴えた側が肺ガンになったとしても、ご近所のタバコの煙との因果関係は証明不能だし、「タバコの匂いのせいで頭が痛くなってしまった」と主張しても、損害とは認めてもらえないという。

もっとも、マンション生活であまりにもご近所迷惑なことを続けていると、分譲の場合は裁判所の命令で部屋を競売にかけられ、家から追い出されてしまうとがある。マンションの所有権は「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」で規定されており、基本的には自分が買った部屋の使い方は自由だが、共同の利益に反する行為に対しては外部からの一定の介入が認められている。

たとえば部屋に大量のゴミを溜め、その臭気が外部まで漏れ出ているとか、異様な叫び声や騒音を上げ続けているといった場合である。近所の人や管理組合が「片づけをしてください」と呼びかけても応じようとしなかったため、管理組合が申し立てを行い、裁判所が訴えを認め、この住人の部屋を競売に付し、引き渡し命令を出したというケースがある。

住人が自主的に出ていこうとしなければ、強制執行となり、執行官が本人を部屋から移動させ、委託を受けた業者が荷物をまとめて搬出してしまうのだ。

ただ、「戸建て住宅の場合は区分所有法が適用されないので、こんな具合にはいきません」(梅原弁護士)という。

眞壁・梅原法律事務所 弁護士 梅原ゆかり
栃木県生まれ。宇都宮女子高校、早稲田大学法学部卒業。1999年、同大学院修了。牛島総合法律事務所などを経て現職。『近隣トラブルの法律と実践的解決法』など著書・監修書多数。
(久保田正志=構成 尾崎三朗=撮影)
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