暴排条例は暴力団の資金源を根こそぎ奪う強力な反社会的勢力への対策であり、進退きわまった暴力団側の反撃も予想されている。条例施行で先行した福岡県では、取引を停止されたり、みかじめ料の支払いを拒絶された暴力団員が、企業や一般市民を攻撃するという事件が多発している。暴力団による企業への加害行為は10年1~6月だけで20件発生、これは前年同期の2倍以上である。うち拳銃や火炎瓶などが使われた凶悪なケース10件が福岡県で発生した。

武闘派として知られる工藤会などの指定暴力団が同県内に活動の本拠を置いているという特殊事情もあるにせよ、暴排条例の施行を機に、今後、東京でも同様の事件が多発するおそれがないとはいい切れない。11年10月には、暴排条例により東急建設から取引中止を通告されたため同社を恐喝したとして、建設関連会社社長が警視庁に逮捕されている。

怖い相手に「仕事は回せなくなった」と告げるのは、当然ながら相当に怖い。それならば、あえて危ない橋を渡らずに知らんぷりを続けようと考えるのは人情というものだ。

関係遮断を決めたとき、警察はほんとうに守ってくれるのだろうか?

「各都道府県の暴排条例は、関係遮断を暴力団関係者が妨害する場合、妨害行為としてこれを禁じ、市民を保護する規定を設けています。東京都暴力団排除条例も、暴力団排除活動に取り組んだことにより危害を加えられるおそれのある場合は、警察が保護措置を講ずると定めており(14条)、警視庁はそのための専門部署も創設しました」(園部洋士弁護士)

条例によると、事前に警察と相談しておけば、相手方に関係遮断を通告する際には警戒活動を開始してもらえる。つまり、警察に保護された状態で暴力団との関係を断つことができるのだ。

「そもそも暴排条例は、一般の人や事業者が自主的に暴力団との関係を断つことを支援するのが目的です。暴力団との関係が深く、勧告を受けることで暴力団との関係を遮断することがはじめて可能になると判断される場合、それを目的とした勧告を出すこともありえるのではないか」と園部弁護士は指摘する。

たとえば福岡県では、霊園の清掃業務や墓石の設置作業を暴力団関係企業に委託していた宗教法人の代表に、利益供与をやめるよう勧告が出されたが、このケースでは、宗教法人の代表が「勧告のおかげで、ようやく縁が切れる」と安堵したと伝えられている。

住民が矢面にたたされるのではないかと心配する声もあるが、これだけの保護措置が取られているのである。

林・園部法律事務所 弁護士 園部洋士
1965年、茨城県生まれ。水戸第一高校、明治大学法学部卒業。同大学院修了。2011年から東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会委員長。同委員会編『暴力団排除と企業対応の実務』が発売中。
(久保田正志=構成 尾崎三朗=撮影)
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