「日本であれ中国であれ、ドルに対する通貨安で私たちは極めて不利な立場に置かれる」
3月3日、米国のトランプ大統領が、円安を非難する発言をしました。それにより円の水準が少し円高方向に動き、この原稿を書いている時点では147円前後です。今回のトランプ氏の発言で、最も喜んだのは日本銀行ではないかと私は考えています。
日本政府としては参議院選挙を控え、景気後退にもつながりかねない利上げには慎重ですが、トランプ大統領の円安懸念発言に対応せざるを得ず、そういった点では、日銀は自身が望んでいる利上げを行いやすくなったからです。
前回トランプ政権時のドル・円レートと比べると
トランプ氏の発言は、ドルをもう少し円などに対して弱くしたほうが、米国の輸出が伸び、米国経済に有利だという考え方に基づいています。このことは、「タリフマン」と呼ばれるほど「関税」を課すことで、自国の立場を有利にしようとするトランプ氏のスタンスと一致します。
というのは、このところより対立を深める中国のみならず、カナダやメキシコといったこれまで比較的仲良くしてきた隣国に対しても「関税」をかけると何度も脅していることはご承知の通りです。
その脅しの意味すること。それは、関税を回避したければ、アメリカに生産拠点を移すべきだということです。そうすると、アメリカでは雇用も増え、生産量も増えます。それが米国内ですべて消費されるのなら、大きな問題はありませんが、過剰生産分は当然輸出されなければなりません。
その際に、現在の為替レートより、米ドルが安いほど輸出には有利です。ですから関税政策で米国に生産拠点を移転させ、雇用をさらに生むとともに、増加した生産分の一部を輸出させるには、ドル安が望ましいということです。
トランプ氏は「ドル安」というだけでどれほどのドル・円レートを想定しているかは分かりませんが、トランプ氏が納得するためには、少なくとも現状より10円程度は円高、つまり130円台くらいにはならないと円高になったという感覚は持ちにくいのではないでしょうか。
実は、トランプ氏が1期目(2017年1月~2021年1月)に大統領となった頃の為替レートは今よりもずっと円高でした。図表1は2017年度からのドル・円レートです。
表でお分かりのように、その頃のドル・円レートは110円程度です。その後、2020年になると、コロナの蔓延が始まり、110円を切る水準に円高が進みました。
これには日米金利差が大きく関係しています。2017年から19年頃までは米国経済はそれほど絶好調ではなかったものの比較的安定していた時期で、米ドルの短期金利は1%から2%程度でした。そして、コロナ禍に入り、それを急速にほぼゼロまで低下させたのです。
その頃の日本の短期金利はほぼゼロの状態でしたから、コロナ禍前では日米金利差が2%前後、コロナ禍に入るとほぼ金利差はゼロという状態となりました。その時のドル・円相場は、ここで述べたように110円程度がしばらく続いて、コロナで110円を切る水準となったということです。


