特に秋冬に流行し、ひどい咳や鼻水を伴う「RSウイルス感染症」。小さな子どもだと悪化して入院を余儀なくされることも少なくない。小児科医の森戸やすみさんは「今年になって、RSウイルス感染症を防ぐ2種類のワクチン、1種類のモノクローナル抗体が発売されたので、ぜひ知っておいてほしい」という――。
RSワクチンのバイアル
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「RSウイルス感染症」とは

みなさんは、RSウイルス感染症がどんな病気かご存じでしょうか。

RSウイルスは冬に流行しやすい感染症ですが、今はどの季節にもみられます。飛沫感染・接触感染で広まり、2〜6日ほどの潜伏期間を経て発症すると発熱し、鼻水と咳がひどくなり、胸からゼイゼイという音がします。子どもでは、呼吸をするのに精一杯になって飲食がしづらくなったり、ひどい咳で眠れなくなったりすることも。

こういった症状が出るのは、下気道の細気管支という一番細い部分に炎症が起こる「細気管支炎」になったり、肺に炎症が起こる「肺炎」になったりするためです。合併症としては「無呼吸発作」や「急性脳症」などがあり、後遺症としては「反復性喘鳴(気管支喘息)」があります。

そして、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスのような抗ウイルス薬がないため、治療は対症療法のみです。入院して行うのも点滴、酸素投与などの対症療法、支持療法が中心。つまり、とても苦しいのに、原因をすぐに治すことはできないんですね。

小さな子どもと高齢者は要注意

RSウイルス感染症は、健康で若い成人だと軽い風邪症状で終わることも多いのですが、小さな子どもと高齢者にとっては恐ろしい感染症です。

子どもの場合、ほぼ全員が2歳までにRSウイルスに感染しますが、月齢が小さいほど重症化しやすく、当然ながら何歳で感染するのかは選べません。RSウイルス関連の入院の約40%は、生後6カ月未満。小さなお子さんがRSウイルスにかかって重症化し、保護者とともに入院するというのは時折あるケースです。生後6カ月以内の子どもでは、人工呼吸器が必要になることもあります。なお、死亡率は1〜3%、心臓に基礎疾患があると死亡率は37%です(※1)

高齢者の場合、RSウイルスに感染すると、気管支炎や肺炎を起こす確率が高くなります。呼吸器や心臓に基礎疾患があると、より重篤になり命に関わることも。それなのに、高齢者にはあまりRSウイルスが知られていません。感染したかもしれないと思ったら、内科で相談しましょう。ただ、保険診療でRSウイルスの抗原検査ができるのは、1歳未満の子ども、入院中の患者、先天的な基礎疾患のある患者(シナジスの適応になる患者)に限られています。検査をせず、状況や症状から診断されることもあるでしょう。

※1 国立感染症研究所 RSウイルス感染症とは