今年発売された「RSウイルスワクチン」

以上のようにRSウイルスは、乳幼児、高齢者、妊婦といった人にとってリスクが高く、しかも特異な治療法がないため、ワクチンの開発が進められてきました。そして今年になってようやく、RSウイルスを防ぐ効果のある「RSウイルスワクチン」が2種類、発売されたのです。接種費用は3万円程度だと思います。

まず、2024年1月に「アレックスビー(組換えRSウイルスワクチン)」が発売されました。60歳以上の人向けのワクチンで、0.5mlを1回、筋肉注射します。接種費用は3万円程度でしょう。

続いて、2024年5月には「アブリスボ(組換えRSウイルスワクチン)」が発売されました。このワクチンは妊婦さんと60歳以上の人向けで、同じく0.5mlを1回、筋肉注射します。妊婦さんの場合は、妊娠24〜36週に接種することで体内に抗体ができ、胎内の赤ちゃんへも移行するため、生まれてすぐの一番危険な時期にRSウイルスから守ることができるのです。こちらも同じく接種費用は3万円前後だと思います。

先にも述べたようにRSウイルス感染症は小さいほど重症化しやすく、月齢別の入院発生数は生後1〜2カ月が最多です。そして当然、お母さん自身もRSウイルスに対する能動免疫ができることから、感染を防げたり重症化しなかったりするでしょう。たとえ風邪程度の症状だったとしても、生まれたばかりの子どもがいるととてもつらいですから、予防するに越したことはありません。

赤ちゃんの呼吸を酸素マスクで補っている
写真=iStock.com/GOLFX
※写真はイメージです

モノクローナル抗体「ベイフォータス」

もう一つ、2024年5月には、RSウイルスを防ぐことができるモノクローナル抗体「ベイフォータス(ニルセビマブ)」も発売されました。モノクローナル抗体とは、特定のウイルスや特定のがん細胞などに効果のある免疫グロブリンです。ワクチンは体内の免疫反応を利用して抗体を作らせる薬剤ですが、モノクローナル抗体は特定の病気に効果のある抗体を配合した薬剤。ベイフォータス1回の接種で、およそ5カ月間にわたってRSウイルス感染症の発症を抑制できます。

ただし、日本において保険で接種できるのは適応のある場合だけ(※2)。自費なら全ての乳幼児が接種できますが、日本での薬価は45万〜90万円です。5カ月間効果があるといっても、高額すぎて現実的ではないですね。医療機関で受ける際には、さらに接種料などもかかりますから、なかなか難しいでしょう。

ちなみにRSウイルスは、毎年アメリカでも猛威をふるい、一年に5歳未満の子ども8万人が入院し、推定100〜300人が亡くなっています(※3)。そのため、以前、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は生後8カ月の乳児は全員ベイフォータスを接種したほうがいいと推奨していました。ところが需要が供給を大きく上まわり、べイフォータスが足りなくなってしまったのです。その後、CDCは小児科医たちに、よりリスクの高い子どもに限ったほうがいいと警告しました。アメリカでのベイフォータスの接種費用は約500ドル(日本円で7万5000円程度)。日本ほどではないにしても高額なのに、希望者が多いのは驚きです。日本と違って、より予防医学に重きを置く人が多いのでしょう。

※2 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン
※3 MIT Technology Review「米国でRSウイルス感染症が流行の兆し、期待の予防薬は供給不足