熱中症の原因はわかっているのに、なぜ毎年必ず子どもが熱中症で亡くなる悲しい事故が絶えないのか。小児科医の森戸やすみさんは「熱中症は予防が肝要だが、もし症状がでてしまった場合、即座に体を冷やしてほしい。可能であれば水風呂に入れるのが効果的だ」という――。
遊び疲れた子供を抱っこしている母親
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「暑気順化」は時間がかかるもの

熱中症というと真夏のイメージがあるかもしれませんが、じつは6月頃から増加することをご存じでしょうか。これは「暑熱順化しょねつじゅんか」といって体が暑さに順化する――つまり慣れるには時間がかかるため、また気温だけでなく湿度も熱中症のリスクに関係するためです。だから、蒸し暑い日本の初夏は意外と要注意なんですね。

熱中症で救急搬送される人は高齢者が多いのですが、次に多いのが子どもです。子どもは大人よりも体のサイズが小さいので、熱しやすく冷めやすいと考えてください。体表面積に比べて体重が小さく、環境の影響を受けやすいのです。

また子どもは大人に比べ、体温を一定に保つ身体機能はもちろん、熱中症にならないための判断力も未熟です。大人は暑いときに速やかに発汗します。さらに早めに水分を摂ったり、衣服を脱いだり、エアコンを付けたりできます。ところが子どもは、年齢にもよりますが、大人のようにはできません。だから周囲の大人が気をつけないと、急に子どもが熱中症になってしまうことがあるのです。

学校の管理下での熱中症による死亡

毎年、子どもが熱中症で搬送されたり、亡くなったりする事故が繰り返されています。2023年7月には山形県米沢市でクラブ活動を終えた女子中学生が、帰宅途中に熱中症と思われる症状により倒れているのが見つかり、救急搬送された後に亡くなりました。

2022年5月には、小学校1年生の女児が遠足から帰宅後に熱中症とわかり、救急搬送されました。この際には、炎天下に長時間歩くことを心配した母親が担任教師に不安を伝えましたが参加を促されたこと、女児が母親による迎えを要請したにもかかわらず呼ばなかったこと、さらに女児がお茶の購入を希望したときに校長が認めなかったことが報道されました。

この他にも学校の管理下で熱中症になったり、亡くなった子どもの事例が、日本スポーツ振興センターのサイトに掲載されています(※1)。屋外で行う野球やラグビー、長時間の登山やマラソンで熱中症による死亡が多く報告されています。子どもたちを守る立場にある学校や先生、大人はもっと危機感を持って熱中症対策をすべきです。

※1 日本スポーツ振興センター「学校の管理下における熱中症死亡事例