書店業は産業構造として成立していない
トーハンの執行役員、明屋書店の社長を務めた私が多方に取材して行き着いた出版界の課題は、「利幅の薄さ」「物流の硬直性」「教育の不在」の3点に尽きます。
街の書店は危機に瀕していて、その数は7000軒を切りピーク時の半分以下になり、地方自治体の4分の1には書店が無くなりました。それは何故なのか? 解決の方策はあるのか? 街の書店の現状と課題についてお伝えしようと思います。
書店業は産業構造として成立していません。どんな業種も粗利益の範囲内にコストが収まらないと赤字になって倒産します。当然ながら書店も例外ではありません。
書店は再販制度で販売価格が決められていて自分で変えることはできません。仕入は本の問屋である取次のトーハンや日販から仕入れますが、トーハンの2023年度取次事業は13.6億円の赤字です。日販はさらに厳しくて36.3億円の赤字です。
当然、取次は赤字部門である書店への卸値を下げることはありません。地方書店の平均的な営業総利益率(粗利率)は23%から24%ですが、書店は販売価格も仕入値も改善できないのですから、この薄い利幅が改善されることは決してありません。一方、経費である人件費、家賃、水道光熱費、電子決済手数料は増えるばかりで、経費が粗利益を超えてしまって赤字になっているのが、書店経営が置かれている厳然たる事実です。
原因は「活字離れ」でも「趣味の多様化」でもない
「#2028年街の書店が消える日」はブラフではなくて、近い将来に必ず起きるファクトです。各地で書店の閉店が相次ぐのは、ビジネスとして従来型の書店経営が終わりを迎えたという現実です。その事に目を背けて「活字離れ」だの「趣味の多様化」だのという議論をしても仕方ありません。書店の利幅改善がなければ、どんな施策も砂上の楼閣です。
では、なぜ急に書店の閉店が表面化したのか? 街の書店の売り上げの半分は雑誌とコミックです。最低でも1カ月に一度は売れるか返品できる雑誌とコミックが街の書店のキャッシュの源泉でした。書籍の年間商品回転率は2回ほどですから、半年に1回しか売れない低単価で利幅が薄い書籍だけでビジネスは成立しません。別表1をご覧ください。出版界の厳しさを示すのにしばしば使われる表です。