全国にある書店の数は年々減り続け、現在はピーク時の半分になっている。このまま「街の本屋」は消えてしまうのか。小島俊一『2028年 街から書店が消える日 本屋再生!識者30人からのメッセージ』(プレジデント社)より、有隣堂・松信健太郎社長の特別寄稿をお届けする――。
書店の陳列
写真=iStock.com/Svetlanais
※写真はイメージです

教養を身につけるのに、本ほど便利なものはない

VUCAという言葉が若干古臭く聞こえるほど、これまでの成功体験が通じない不確実な時代である。

このような時代に、一人ひとりが個人として尊厳を持って生き、尊重され、自己成長し、自己実現して幸せに生きていくためには、「自分の頭で考える」「自分のことは自分で決める」ことが不可欠だ。

自分の頭で考え、自分のことは自分で決めるためには、自分をより高めていく力が必要である。自分を高める力とは、経験、体験、知識、教養、擬似体験、こんな要素が構成要素になろう。

経験・体験はともかく、知識、教養、擬似体験について、本は圧倒的な力を発揮する。これほどまでに安価で簡便なツールがほかにあるだろうか。まさに、有隣堂のキャッチコピーに言う「本は心の旅路」の通り、本は個人の成長や幸せに直結する商品なのだ。

また、グローバル化の時代と言っても、全ての若者が海外に出ていけるわけではない。日本が国力を上げ、もう一度輝きを取り戻すことが必要だ。

石油や天然ガスが出るわけでもないこの国が、もう一度輝きと自信を取り戻し、全ての人にとって夢と希望が溢れる国にするには、国民一人ひとりの情報収集能力を含む知識レベル・知的レベルを上げなければならない。

2028年には街から書店が消える

本はそのための最適・最強のツールだ。すなわち、個々の国民が読書を通して知識を増やすことがこれからの日本には不可欠であって、本は国力回復にとっても重要な商品なのである。

本の大切さ、有用さはこれ以上多弁を要しないだろう。出版業界に籍を置いていようがいまいが、この点に特に異論はないように思う。

こんなにも有意義、有用な「本」を売る場所である書店が、この国から姿を消そうとしているという。本書のタイトルによると、それは2028年だそうだ。「これは由々しき事態である、さて、どうする、どうする?」と慌てふためいているというのが今の書店が置かれている状況なのは確かだ。

しかし、先に述べた本の有用性と、書店が生き残ることは残念ながら別の話だと考える。

いかに本が個人の幸せや国力回復に有用だとしても、その態様や形態、あるいは流通は時代により変化するのだ。本が有用だとしても、その有用性は「本だけ」が提供し得るものではない。特にデジタル化社会において、その傾向は顕著だ。技術革新はそれらの役割において「本」以上の有用性を発揮することを意味する。

有隣堂「ヒビヤセントラルマーケット店」
写真提供=有隣堂
有隣堂「ヒビヤセントラルマーケット店」の店内の様子。壁に大きく書かれた「本は心の旅路」は、本は個人の成長や幸せに直結するという松信健太郎社長の思いが込められている