優秀な若い人材を獲得するために

しかし、もしその時にアスクルエージェントになることを選択していなければ、今の有隣堂はない。残念ながら利益が創出できなくなった書店事業のマイナスをカバーし、今現在の有隣堂を支えているのはアスクルエージェント事業だからだ。

ともあれ、書店は誰かに頼ることなく、自らの力でイノベーションを起こしていくべきだ。多くがそうであったように、イノベーションの端緒は「危機」だ。業界の危機、企業の危機、個人の危機。ここからイノベーションは生まれる。私たち書店が危機に瀕している今こそ最大のチャンスだ。

イノベーションを起こし、「次に稼ぐもの」を見つけるための挑戦には、優秀な若い人材が必要だ。既成概念や業界慣習にとらわれず、新たな発想でイノベーションを起こしていく人材。中小企業がほとんどの書店は、この人材確保がすごく難しい。

採用、求人こそ企業成長の源泉なのだから、経営者自らが様々なアンテナを張り、自分の思いを語り、賛同してくれる優秀な人を探すことが不可欠だろう。

書店に並べられている本
写真=iStock.com/bitterfly
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関西初出店では、最大3時間待ちの大行列に

そして、若い人たちを成長させるための教育や研修制度の充実も必要だ。これも中小企業は自社だけで完結することは難しい。一番のリスクは、疲弊している現場でイノベーティブではない「先輩」が優秀な若手を潰してしまうことだ。これだけは気をつけなければならない。

イノベーションを起こすための原動力としてもう一つ必要なのは、「ファン」ではないかと思っている。当社には「有隣堂しか知らない世界」というYouTubeチャンネルがある。「有隣堂しか知らない様々な世界を、スタッフが愛を込めてお伝えする」というコンセプトのチャンネルだ。現在の登録者数は、28万人を超える。

企業チャンネルとしては驚異的な登録者数と自負している。これによって私たちは多くの「有隣堂ファン」を獲得した。「ゆーりんちー」と呼ばれるこの番組のファンが、番組だけではなく私たちの新しい挑戦も応援してくれるのだ。

2023年10月、有隣堂は初めて関東圏以外に出店をした。わずか90坪の「神戸阪急店」オープンの日には、特に限定商品があるわけでもないのに多くのゆーりんちーが神戸に集結してくださり、レジは最大3時間待ちとなった。

有隣堂が初めて関東圏以外に進出した「神戸阪急店」
写真提供=有隣堂
有隣堂が初めて関東圏以外に進出した「神戸阪急店」。オープン日には多くのファンが詰めかけ、レジは最大3時間待ちとなった。