たとえば、プログラミングコードを使ってシステム開発をしたり、高度なアルゴリズムを書いたりすることは、かなり頭を使う作業です。将棋や囲碁といったゲームをプレイしてプロを打ち破ることは、普通の人が頭を使ってどうにかなるレベルではありません。
これらは人間のなかでも、一部の天才や高度なトレーニングを積んだ者にしかできません。しかし、すでに見てきたように、現在のAIはこれを簡単にできてしまいます。
では、服を畳む、食べものを箸でつまむ、散らかった部屋で移動する、ものを探して持ってくる、スキップする、といった作業はどうでしょうか。これはほとんどの人間が簡単にできることです。
多くの人にとってプログラミングは難しい作業ですし、藤井聡太さんを将棋で倒せる人は、少なくともアマチュアでは一人も存在しないかもしれません。それに対して、箸を使ったりスキップしたりすることを難しいと感じる人は、まさかいないでしょう。人間であれば小学生か、下手すれば幼稚園児でもできることです。
肉体労働を中心にした職種は代替が難しい
しかし、AIにとってはこれが大変困難なことなのです。現時点では、これらの作業を実行できるAIは存在しないか、相当に限られた範囲のことしかできません。生成AIが登場したあともこの点は変わらず、「モラベックのパラドックス」はいまだに健在です。
「GPTs are GPTs」で示されていた生成AI登場後の「AIの影響を受けにくい職業」とは、まさにこのあたりの能力を必要とする作業、つまり肉体労働を中心にした職種です。皮肉なことに、人間にとっては一般的に賃金が低い傾向にあるこれらの職業は、AIで代替するのが最も難しい職業だったのです。
頭脳労働は生成AIなどを実装した機械に奪われてしまい、創造性を発揮する余地はなくなるのではないか? そんな悲観的な考えが頭をよぎります。