ブルーカラーの仕事は影響を受けにくい

影響を受けにくいとされる職業は、ほとんどが手足を動かす肉体労働を行うもの、いわゆるブルーカラーと呼ばれる職種です。一方で、影響を受けやすいとされる職業は、エンジニアや研究者、デザイナーなど、高度な判断力や創造的な思考が必要とされるもの、いわゆるホワイトカラーと呼ばれる職種です。

クレーンに資材をかける作業員
写真=iStock.com/Mlenny
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最終的な結論として、全職業の8割がなんらかの影響を受け、さらにそのなかの2割ほどは労働の半分がAIに完全に置き換えられるレベルの影響を受けるだろうとしています。さらに同論文内の分析を見てみましょう。図表3を見てください。

この図が主張しているのは、本章冒頭でも少し触れた次のような内容です。

「高学歴で高いスキルを身につけた者が就くような賃金が高い職業であるほど、生成AIによる自動化の影響を受ける可能性が高い。ただし、本当に習得に時間がかかる高度なスキルが必要とされる職業に関してはその限りではない」

図表3を見てみると、必要とされる訓練が短い、または学位の要求が低く、賃金が低い職業であるほどAIの影響を受けにくく、逆に訓練期間が長く、学位が必要で、賃金が高い職業であるほどAIの影響を受けやすいという傾向があります。ただし、弁護士のように最も賃金が高く、訓練に必要な時間も長い職業については、AIの影響の受けやすさの値は高いものの、その程度は限定的です。

なお、ここで示したのはあくまでもGPT-4が登場した初期の時点での見解ですので、それ以降も急速にAIが発展していることを考えると、実際の影響はこれどころではないでしょう。

「奪われる仕事」が10年で真逆の結論になった理由

たった10年の間で、どうしてここまでの変化があったのでしょうか。それはコンピュータ・AIにできること/できないことの前提が、生成AIの登場でひっくり返ってしまったからです。

「ポランニーのパラドックス」という有名な説があります。これは哲学者マイケル・ポランニーの言葉をもとに提唱されたもので、その内容は「人は言葉で表現できる以上のことを知っている」というものです。この「言葉で表現できる以上のこと」を「暗黙知」と言います。

このパラドックスは、人間の作業の機械化を阻む障害を表すものとして、よく引き合いに出されます。コンピュータは人間がプログラミングして初めて動きます。つまり、人間が言語で表現してプログラミングコードに落とし込むのが難しい動作は、そもそも機械化のしようがないということです。機械化においては、このパラドックスをどうやって乗り越えるかが課題でした。