AIによって人間の仕事はどうなるのか。東大のAI研究者・今井翔太さんは「AIに仕事を奪われると単純に考えないほうがいい。導入がいち早く進んでいるカスタマーサービス業界を調査した研究では、スキルの低い人ほどより多くの恩恵が得られる可能性が示されている」という――。

※本稿は、今井翔太『生成AIで世界はこう変わる』(SB新書)の一部を再編集したものです。

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写真=iStock.com/Laurence Dutton
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機械化・AI化によって「仕事が奪われる」とは限らない

それではここからは、「機械化による影響を受ける」という事象についてもう少し詳しく考察していきます。

実は先ほどから、「AIによって仕事が奪われる」という表現は一度もしていません。ここまで議論してきたのは、ある職業が影響を受けやすいか、受けにくいかというものです。

生成AIなどの技術による労働への影響を考える場合、その技術が「労働補完型」の技術なのか、「労働置換型」の技術なのか、分けて考える必要があります。

労働補完型の技術とは、人間の労働を補助し、その労働自体を楽にしたり、生産性を上げたり、新しい仕事を生み出すきっかけになるような技術です。一方の労働置換型の技術とは、文字通り人間の労働を完全に置き換え、人間が介在する余地をなくしてしまうような技術です。

労働がある技術の影響を受ける場合、その技術が労働補完型であれば、単純に現在の仕事を奪われるという事態にはなりません。むしろ、その技術によって労働が効率化され、賃金が上昇する可能性があります。

仮に現在の労働がほとんど機械に置き換わってしまった場合でも、その技術自体が新たな労働を生み出すことで、そのマイナスの影響を打ち消すことができます。

産業革命で人間の仕事はどう変化したのか

第二次産業革命で登場した電気や、それを応用した大量生産技術などは労働補完型の技術であったとされ、実際に当時の雇用は増え、賃金も上昇したという研究結果が出ています。

逆に、産業革命初期に登場した紡績機、力織機などは労働置換技術であったとされ、スキルを持った労働者が不必要になり、そのような労働者が就ける代わりの仕事も生み出さなかったようです。