仕事を早く終わらせるにはどうすればいいのか。オックスフォード大学学科長のベント・フリウビヤ氏は「厳しい期限を設けて速攻で進めることがいいと思われがちだが、このやり方は無駄どころか、プロジェクトの炎上を招きやすい」という――。

※本稿は、ベント・フリウビヤ『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

薪のクローズアップ
写真=iStock.com/Kosijerphotography
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「厳しい期限を設け、速攻でやる」は間違っている

プロジェクトをできるだけ早く終わらせるにはどうしたらいいのだろう?

パッと頭に浮かぶ最も一般的な方法は、厳しい期限を設け、速攻で開始し、関係者全員を猛烈に働かせることだろう。やる気と意欲がカギだ。経験的に2年かかりそうなプロジェクトを、1年で終えると宣言する。プロジェクトに精魂傾け、日夜邁進する。部下を厳しく管理し、早くやれとハッパをかけ、ローマのガレー船の出航を知らせるドラのごとく尻をたたき続ける。

これはよくある方法だが、間違っている。私の故郷・デンマークのコペンハーゲンには、それを物語るモニュメントがある。

デンマーク王立歌劇団の本拠であるコペンハーゲン・オペラハウスは、この国の巨大海運会社マースクの創業者、アーノルド・マースク・マッキニー・モラーのビジョンから生まれた。1990年代末、モラーは90年近い人生を振り返り、自分の足跡を目に見えるかたちで後世に伝えたいと考えた。そのために、港に面した目立つ場所に立派な建造物を建てることにし、できるだけ早急に完成させることを望んだ。

急ぎは無駄どころか、悲劇をも生む

開所式にデンマーク女王の臨席を賜り、人生の晴れ舞台にしたかった。建築家のヘニング・ラーセンに工期を訊ねると、5年という答えが返ってきた。「4年で頼むぞ!」とモラーは言い渡した。ドラが激しく打ち鳴らされ、期限は守られた。2005年1月15日、モラーは女王とともに開所式に出席した。

だが急がせたツケは大きかった。それも、コスト超過だけではない。建築家のラーセンは建物のできばえに驚愕し、汚名をそそぐために、彼が「霊廟れいびょう」と揶揄した不可解な構造を弁明する本を書いたほどだ。

ことわざに言うように、「急ぎは無駄を生む」のだ。

オペラハウスが払ったツケは、この種の突貫工事の代償としてはまだましなほうだった。2021年にメキシコシティで起こった地下鉄高架橋崩落事故は、その後に行われた3つの独立調査により、性急でずさんな工事が原因だったことが判明した。

市の依頼で調査を行ったノルウェーの会社は、この悲劇が「建設工程の不備」によって引き起こされたという結論に達し、市の司法長官による報告書でもこれが確認された。

ニューヨーク・タイムズも独自調査を行い、強力な市長の在任中に橋を完成させるために、市が工事を急がせたことが主な原因と断定した。「完成を急ぐあまり、全体計画が確定する前に工事が開始され、最初から欠陥だらけの地下鉄線が生まれた」と同紙は結論づけている。高架橋崩落は26人の命を奪った。急ぎは無駄だけでなく、悲劇も生むのだ。