この研究では、システムを利用するエージェントがスキルの高さによって分けられ、それぞれ個別の結果も報告されています。システムを利用した生産性の向上効果は、最もスキルが低い労働者(Q1)が最も大きく、1時間あたりの解決率が35%向上しています。一方、最もスキルが高い労働者(Q5)の場合、ほとんど解決率の向上が見られません。

システム導入後の労働者と顧客の満足度(ポジティブな感情)はどうでしょうか。図表3を見ると、両者とも上昇傾向にあり、特に顧客の満足度の変化は非常に大きくなっています。また、カスタマーサポートは特に離職率が高い職業であると最初に説明しましたが、システムの影響は離職率を下げる方向に作用し、離職者が平均して9%近く減少するということです。

これらの結果を総合して考えると、生成AIシステムの導入は、労働当事者の満足感を上げつつ、仕事の質も向上させ、さらに顧客の満足度も上げるという非常に良い影響があることになります。

AIを使えば誰でも価値を理解できる

ところで、このシステムはあくまで回答の候補を提案するものでしたが、そもそもエージェントはこの提案を採用しているのでしょうか。これについては面白い結果が報告されています。

システム導入の初期には、最もスキルが高い労働者はシステムの提案を拒否する傾向があったようです。しかし、時間の経過とともに、どのスキル帯の労働者もシステムの提案を受け入れるようになり、最終的な変化の割合は最もスキルが高い労働者で大きくなっています。

スキルが高い労働者は、当初は自分のスキルへの自信ゆえにAIの出力を拒否するものの、最終的には生成AIの提案の質や価値を認めるようになるというこの傾向は、生成AIが別の分野に導入される場合にも参考になるでしょう。

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