転職する際の「限界年齢」はあるのか。失敗学を専門とする東大名誉教授の畑村洋太郎氏は「人には『新しいことを吸収する能力』と『他人をその気にさせる能力』がある。これらの交差点が、まったく新しい職種へ転職する限界年齢だ」という――。

※本稿は、畑村洋太郎『人生の失敗学 日々の難儀な出来事と上手につき合う』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

会議室で握手するビジネスマン
写真=iStock.com/yonntra
※写真はイメージです

加齢は「世界の収縮」との戦い

最近は、加齢によって自分の身に起こっている世界の収縮との戦いに明け暮れています。大きな流れに逆らうのはたいへんではありますが、初めて経験することなので、失敗とつき合うときのように、得られる教訓や恩恵などをすべてしゃぶりつくすつもりで楽しみながら行っています。

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加齢による世界の収縮はいずれだれもが経験することですが、それにしても人生の巡り合わせというのは本当に不思議なものです。あるとき、世界の収縮はそれ以前の心がけや行動の影響を強く受けることに気付きました。収縮に抵抗する力は、その人がこれまでどのように生きてきたかに大きく左右されるという意味です。

私の場合は、提唱していた「失敗学」が評価されたお陰で、東大を定年退職してからもいろいろな声がかかり、それまで経験できなかったことを含めて、本当に様々な活動を行うことができました。しかし、そのようなことがなかったら、定年退職したときから世界の収縮が一気に進んでいたことでしょう。最近は仕事などで人と出会う機会が少なくなり、交流の相手はかなり限定されてきました。そういうことがもっと早い段階で起こっていたでしょう。

年齢を重ねても変わらない「知識欲」

その一方で、これまで交流のあった人たちの訃報に触れる機会が多くなりました。新たな出会いが少なくなり、それまで交流していた人が、一人また一人と亡くなっています。年を取ると、こういうことが当たり前のように起こります。まわりの人や物事との関わりが失われたり弱くなったり、それによって自分の世界が嫌でも収縮していくのです。

嫌ならあらがうしかありませんが、体力も気力もない中でこれを行うのはたいへんです。結果、多くの人は、あきらめるか、とくに自覚がないまま、この収縮を甘んじて受け入れているのが現実ではないでしょうか。

自覚はしていなかったものの、私の場合はこの流れにかなり抵抗していることに気付きました。新たな人や物事と出会う機会を受け入れて面白がっているのが、それです。いつも自分で積極的に動いているわけでなく、年齢が離れた若い人たちも参加している研究会をいくつか主宰しているので、まわりがうまくやってくれることがよくあります。

その上に乗っかっているのであまり偉そうなことは言えませんが、その状況を素直に受け入れている点は、少しは誇っていいでしょう。

実際、年相応に新しい状況や変化を受け入れにくくなっているとはいえ、相変わらず知識欲はどん欲です。その欲を満たすためなら自ら動きたくなるし、新しいことへの変化もさほど気になりません。そのあたりはやはり、長年失敗について考えたり扱う中で培われたものでしょう。自分の利益になることがよくわかっているので、抵抗がないどころか前向きに取り組むことができています。