研究テーマの変更が教えてくれたこと

小さな部品の加工技術は、小型化が進むコンピュータや携帯電話などの情報・通信機器や医療機器の分野などでの利用が見込まれていたものの、研究テーマとして扱っている人はまだほとんどいませんでした。それだけ需要が期待できるということで、実際、後にセンサーやアクチュエータなど重要部品の製造に欠かせない技術になりました。

畑村洋太郎『人生の失敗学 日々の難儀な出来事と上手につき合う』(朝日新書)
畑村洋太郎『人生の失敗学 日々の難儀な出来事と上手につき合う』(朝日新書)

そのためこちらから特別の情報発信を行う以前から、研究室のOBを通じて新たな研究テーマに興味を示したいくつかの企業からすぐに共同研究の申し入れや、研究費のサポートの申し出がありました。

私の話を聞いたある企業の人は、「裏庭をほじくりながら宇宙のことを話しているようだ」と言っていましたが、遠い世界に思えていたことがより身近に感じられたということですから、この研究テーマの変更は大成功でした。

このときの経験は、定年後、個人事務所をつくって新たな活動を始めたときにも大いに役立ちました。学問のことしかわからない世間知らずの大学教授と思われていたようで、新たな仕事を始めたときにはまわりから親身になって心配する声をよくかけられました。しかし、相手の最も大事な研究にアイデアを出し、その見返りとして研究費をサポートしてもらうというのは以前からやっていたことで、個人事務所の仕事はその延長線上にあるものでした。すでに経験して自分の世界が広がっていたので、大きな問題にぶつかることやとくに戸惑うこともなく、スムーズに転身することができました。

挑戦している人の枠は大きく広がる

そんな調子で、老いによって起こっているいまの変化にも柔軟に対応することができています。未知なことを行うのは、新たなことへの挑戦そのもので、気苦労も多く、なかなかたいへんです。しかし、プラス面に目を向けると、多くのことを学びながら、自分の世界をどんどん広げることができるのですから最高の状況と言えます。

人間のキャパシティには限界があるものの、常に挑戦している人の枠は、まったくしない人のそれに比べてはるかに大きくなっています。この差もまた、失敗との向き合い方で変わるということで、それを知った人は私のように、失敗への見方がより前向きになってより多くの恩恵を受けやすくなるでしょう。

そして、このことが老いてからもプラスになるというのが、私が最近感じていることです。加齢は世界の収縮を加速させるもので、肉体的な機能の衰えから行動が制約されて、まわりの人たちとの関係性が徐々に断たれ、社会の活動から切り離されていきます。これは世界の収縮そのもので、そのまま放置していたら加速度的に進んでいきそうです。

おそらく世の多くの老人は、孤独感とか疎外感といったものを感じながら、この恐怖に苛なまれていることでしょう。「これをこうすべき」というのは私の中にもまだありませんが、「これがいいかもしれない」というのは自分自身の体験を通じてできつつあります。それをできるかぎりお伝えしたいと考えています。

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