NHK「豊臣兄弟!」では、織田信長が美濃攻略を進めるシーンが描かれている。信長は、どのような人材戦略をとっていたのか。ルポライターの昼間たかしさんが、文献などを基に史実に迫る――。
岐阜市北一色から望む金華山連峰(南側山体)
岐阜市北一色から望む金華山連峰(南側山体)(写真=Newgreen/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

御前試合で見せた“藤吉郎の卑怯さ”

NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」。第6回(2月15日放送)では秀吉と秀長の“兄弟の絆”が描かれ、いよいよ美濃攻めへと盛り上がっている。

1週前の2月8日は衆院選の選挙特番で放送休止となった。同じ乱世でも、夢も希望も置き去りに、絶望しかないのは現代のほう。だが、ドラマの中の戦国時代と、現代日本の政治状況には、決定的な違いがある。

戦国時代には「こいつはヤバい」と思ったら逃げることができた。現代の我々は、そう簡単に逃げられない。そして今、ドラマの中で最も「ヤバい」人物が鮮明になりつつある。それは秀吉ではない。織田信長だ。

信長のヤバさが如実に垣間見えたのは、第5回(2月1日放送)で描かれた御前試合だ。兄・藤吉郎(池松壮亮)の勝利のため、弟・小一郎(仲野太賀)が考えた作戦は、弱い相手と戦うように仕組むこと。対戦相手の組み合わせを決める担当者をうまく言いくるめ、藤吉郎は順調に勝ち上がった。

だが決勝で、強敵・前田利家(大東駿介)と対峙する。追い詰められた藤吉郎は、素手で逃げ回りながら利家を挑発。「素手の相手に勝ってうれしいか。自分ならそんなまねはしない」と言って、利家に木槍を捨てさせた。

ところが次の瞬間、藤吉郎は自分の木刀を拾って素手の利家に襲いかかったのだ。

信長の経営・人材戦略への“批判”

放送直後からSNSには「いかさま」「汚い」「カス」「卑怯過ぎる」という視聴者の呆れた感想が並んだ。だが、ここで注目すべきは藤吉郎の卑怯さではない。この試合を設計した信長の「経営手法」だ。

視聴者は藤吉郎の卑怯さに怒った。だが、この卑怯な方法を信長が許容していることのほうが、よほどヤバい。

御前試合は「士気高揚」という名目で開催された。しかしルール設計は曖昧だ。不正・卑怯・挑発はどこまで許されるのか。その境界線は、現場の武士たちの判断に丸投げされた。藤吉郎は木刀を拾って素手の相手に襲いかかったのも卑怯であると怒り呆れる者はいる。

しかし、信長はノーカウント。それどころか、この卑怯な勝ち方を黙認するにとどまらず、むしろ評価しているのだ。

能力主義で人材を巧みに利用したとされる信長だが、後世の識者から「経営・人材戦略」を高く評価されているとは言い難い。

例えば江戸時代初期の儒学者・小瀬甫庵が著した『甫庵信長記』。この本は太田牛一の『信長公記』をベースに、創作を交えて信長を描いている。長篠の戦いにおける三段撃ちは、この本が発祥の創作とされる。甫庵は信長を「知勇兼備の名将」と評価する一方で、武道のみを専らに用いて文を疎かにしたこと、家臣に対して酷薄であったことを批判している。