NHK朝ドラへの描き方への違和感
松江新報に「ヘブン先生日録」が連載されるようになって以来、松江では松野トキ(髙石あかり)も、彼女を娶ったレフカタ・ヘブン(トミー・バストウ)も、注目されるばかりかスターのようなあつかいを受けるようになり、とりわけトキはシンデレラにたとえられるなど、すっかり時の人になった。NHK連続テレビ小説「ばけばけ」の第17週「ナント、イウカ。」(1月26日~30日放送)。
しかし、じつをいえば、筆者は違和感をいだいていた。
トキのモデルの小泉セツは、ヘブンのモデルのラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が、人との付き合いを避けようとするのに苦労した。ハーンの死後、セツが口述した回想が筆記された『思ひ出の記』にも、「ヘルン(註・ハーンのこと)は面倒なおつき合いを一切避けていまして」と書かれている。それなのに、「ばけばけ」では毎日、朝食時に松江新報の記者の梶谷吾郎(岩崎う大)の取材に答える、という展開が不自然に見えたこともある。
だが、それ以上に、セツは松江では「シンデレラ」だなどと称揚されるよりも、むしろ差別的な目を向けられたのではなかったか、と思っていた。そうしたら、第18週「マツエ、スバラシ。」(2月2日~6日放送)で状況が大きく転換した。
史実のセツは正真正銘の「ラシャメン」だった
松野家が抱える膨大な借金が、ヘブンのおかげでついに完済され、なぜか借金取りの森山銭太郎(前原瑞樹)まで参加してお祝いパーティが開かれた。そこに梶谷が訪れ、借金を返すことができた理由を取材した結果、翌朝の「ヘブン先生日録」に「松野トキさんがヘブン先生と夫婦になったことで、松野家はすべての借金をヘブン先生に返してもらい」云々と書かれた。
その途端、松江の市中でトキに向けられる目が激変した。ヘブン一家のグッズを売っていた店はグッズを燃やし、そこら中の人が「ラシャメンだ」だの「金で買われた異人の妾」だのと、トキのことを口汚く罵りはじめた。
ちなみに「ラシャメン」とは、西洋人の妾のことを指す。しまいにはトキは石までぶつけられ、額にケガを負ってしまう。そのうえ夫婦とトキの両親らが暮らす家の前には、それまで持てはやされていたヘブン一家のグッズが、大量に廃棄されるまでになる。
ドラマだから、トキが町のヒロインのように持ち上げられる様子も、そこから一気に落とされ、叩きつけられる状況も、かなり極端に描かれてはいる。だが、どちらが当時の実態に近い描写かといえば、後者だと考えられる。「ばけばけ」では、トキは新聞記事のせいで「ラシャメン」だと誤解されてしまった。しかし、史実のセツは、当初はまぎれもない「ラシャメン」だったはずだからである。

