卒業生に言われた「思いもよらぬ言葉」
私が当時行っていたのは、鋳造や塑性加工などの分野の研究で、世間でだれも使わない古いものになっているのを感じながら、ずっとそれにしがみついていました。このままではじり貧になるという危機感はあったものの、新しいことを始めるのは面倒だし、人間関係などしがらみもあるので、長年やってきたことをそのまま続けるという、ぬるくて楽な道を進むのをよしとしていました。
しかし、ある卒業生と一緒に飲んだときに言われたことがきっかけで、思い切って研究テーマを変えることにしました。その指摘は「先生のやっている研究はつまらない」「大学で教わったことなんて、会社ではちっとも役に立たない」「時代遅れの研究はやらされる学生にとっては迷惑なだけだ」というかなり手厳しいものでした。
奮起を促すつもりだったのでしょうが、「新しい世界に飛び込むのがそんなに怖いんですか」とまで言われました。どれも納得できる正論で、もともとなんとかしなければという思いもあったので、このことがきっかけで一念発起して研究テーマを変更することにしました。
ナノ・マイクロの研究を始めることに
研究テーマの変更を行う場合、ふつうは新たな研究テーマを探すだけでも苦労します。幸いにして私の場合は、自分が提供したアイデアに基づいて企業が開発を行う産学協同の活動を、大学の研究とは別にいくつか手がけていました。
そちらのほうは時代の最先端の技術を扱っているものも多く、自分で費用を出して特許登録しているものもいくつかありました。それらの活動を通じて世間が求めている方向がなんとなくわかっていたので、新しい研究テーマを決めるときにそれほど迷うことはありませんでした。
このとき選択したのは「ナノ・マイクロ」の研究です。電子顕微鏡を通してしか見ることのできない小さな世界の中で、どのようにものを操作して加工を行うかを新たな研究テーマにしました。それまでは金属を溶かし加工することや建設機械のように重厚長大なものを扱っていましたが、ナノ・マイクロはそれとは真逆の小さな世界です。扱う世界は小さいものの、このことで私の世界は大きく広がりました。

