※本稿は、畑村洋太郎『人生の失敗学 日々の難儀な出来事と上手につき合う』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
「世の中の変化」というリスク
世の中は絶えず変化しています。その積み重ねで、やがてある部分で大きな変化が生じて、それが原因で失敗が起こるというのもよくあるパターンの一つです。
当事者は不幸なことが自分の身に突然降って湧いたように受け止めますが、失敗の種は以前から存在し、ゆっくりと育っていました。そのことをまったく意識していなかった、あるいは薄々気付いているのに考えるのが面倒で、ないものとして扱っていたというのは、だれもがふつうにやりそうなことです。それが大きな失敗の原因になり得るというのは知っておいたほうがいいでしょう。
子どもの頃からずっと東京都内で暮らしているので、環境や価値の変化が失敗の原因になるケースを間近に見る機会がよくありました。戦前の生まれですが、幼児期に終戦を迎えているので、さすがに戦争のときの記憶はほとんどありません。それでも戦争後の復興の様子は、多感な子どもの頃からずっと見続けてきたのでなんとなく覚えています。
めまぐるしく変化する中にいると気付きにくいものですが、ある頃のことを思い出して、そのときと別の時代の心象風景を比較してみると、大きな差を感じることができます。
定点観測し続けてわかった「失敗」
場所を固定して、継続的に観察や記録を行うことを「定点観測」と言います。これを心の中でやっているようなもので、変化の程度を把握するときに有効な方法です。たとえば、家のまわりの風景にしても、子どもの頃に比べると、同じ場所とは思えないくらいに人や建物は大きく変わっています。
原因はいろいろありますが、とくに強く印象に残っているのは価値の変化によるものです。バブル経済の頃は、都内の土地の資産価値が爆発的に上がりました。一見すると、よいことに見えますが、それゆえの弊害もありました。そのことが原因で、同じ場所に住み続けることができなくなった人もいたのです。
大きな原因は相続税です。資産価値の高い不動産の相続は、大きな税負担を強いられます。日常的に使うことができる資金からそれを捻出するのはたいへんだったようで、地域から広い土地に建つお屋敷がどんどん消えていきました。相続税を払うためのお金を、土地を切り売りして捻出したのでしょう。お屋敷を維持するだけでもたいへんかつ面倒で、建物を取り壊して、土地を分割して売却するケースもありました。
一方で、土地の広さを活かして、マンションが建つこともあったので、地域から次第に庭や木立があるお屋敷がすっかり消えて、こぢんまりとした建物やマンションが並んでいるいまの姿になりました。

