AI以前にコンピュータの基本的な性能から考えて、「定型作業」が機械化によって置き換えられることは、昔から共有されてきた認識です。定型作業とは、作業内容があらかじめ決まっており、人間の言葉で作業内容を記述できるようなもの、つまり単純な行動の繰り返しで実行できるようなものを指します。

「非定型作業」の一部も機械で置き換えられるようになった

このような作業は、人の手でその内容をコンピュータにプログラミングできます。コンピュータは、人間によって書かれたプログラム、つまり動作するためのルールに従って動作すれば、定型作業を完了できます。

2013年は機械学習・ディープラーニングの本格的な性能上昇が認知され始めた時期です。この時期には、機械学習によって「非定型作業」の一部も機械で置き換えられるという期待が大きくなりました。非定型作業とは、作業内容が決まっておらず、しかも人間の言葉で作業内容を明確に記述できないようなもので、まさにポランニーのパラドックスで言う「暗黙知」が関わる作業です。

たとえば、運転は交通状況や天候などに左右され、同じルートであっても作業内容は毎回異なります。もっと簡単な例で言うと、猫と犬を見分けるといった識別も非定型作業です。人間はこれを簡単にやってのけますが、実は犬と猫を見分けるルールを言葉で明確に表すのはかなり難しいことです。異常検知も非定型作業の1つです。人間の「なんか変だなぁ」という感覚の「なんか」は、言語で表すことの難しさを端的に表しています。

都会のビル
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AIは人間の「暗黙知」も学習できる

機械学習・ディープラーニングは、人間が作業をプログラミングするのではなく、データから自ら学習することにより、このような非定型作業の一部を可能としました。

これらの非定型作業は確かに言葉で表すのは難しいのですが、作業の実例や正解データ自体はいくらでも存在しますし、作業の過程はともかく、作業で達成されるべき目標や成果は明確です。それらをAIに学習させれば、言葉にできない作業過程も自律的に学んでくれるというわけです。

つまり、「ポランニーのパラドックス」で言う暗黙知の一部分は、機械にも学習可能であることが明らかになったのです。

ここまでは先ほど紹介した論文「雇用の未来」においても、AI/コンピュータによって代替できることとして前提にされていた部分です。ただし、この論文でも、AIには将来的にも難しいとされていた能力があります。論文内では「創造的知能」と「社会的知能」とされていた能力です。

創造的知能とは、作曲や科学研究など、新しく価値あるアイディアを思いつく能力です。社会的知能とは、交渉や説得のように、人間の感情を重視した対人コミュニケーションを行う能力です。