ハードモードな人生
緋山さんが出張などで家を空ける場合は、実の母親に泊まりに来てもらっている。困ったことやわからないことがあれば、ケアマネジャーや訪問看護師、通院先の医師や若年性認知症支援のコーディネーターなどに相談している。
「介護サービスを受けることを恥ずかしいことや情けないことと思ったりしないで、受けられるサービスはなるべく受けたほうがいいと思っています。また、場合によっては介護保険とは別に、障害福祉サービス(障害認定・障害者手帳など)や、障害年金などを受けられる可能性がありますが、ケアマネジャーさんはそちらには詳しくないこともあります。今はインターネットで多くの情報を拾えますし、自分で調べることをおすすめします」
緋山さんの場合、妻の入浴はデイサービスに。洗濯物の取り込みやたたみ、夕食準備はヘルパーに頼むことで自身の負担を減らした。それでも、ダブルケアをしながらフルタイム勤務をしている緋山さんは、ストレスに耐えきれなくなった2022年12月ごろから、心療内科に通い始めている。
「精神的に一番つらいのは、妻が妻でなくなってしまったことです。妻はもう、自分からは何も表現できなくなり、過去の記憶もなくなっています。残念なことに、自分が好きだった妻はもういません。それでも私が介護を頑張るのは、子どもがいるからだと思います。子どもにとってはどんな妻でも『お母さん』です。もちろん私にとっても妻が大切でなくなったわけではないですが、昔の妻を知っている私はどうしても悲しい気持ちになります……」
まだ介護を始めたばかりの頃は、妻は緋山さんに感謝をしてくれたり笑顔を見せたりしていたが、現在は感情表現がほとんどなくなってしまった。
「その点では介護にやりがいや喜びを感じなくなってしまいましたが、ヘルパーさんから『今日はたくさん歩けた』『楽しそうに過ごしていた』などと聞くとほっとした気持ちになります。介護も育児も、完璧にやろうと思わないことだと思います。ダブルケアは大変ではありますが、育児は子どもの成長やかわいさが心を癒やしてくれています」
企業に勤める40代男性の多くがそうであるように、かつてはキャリアアップを目指していたという緋山さん。だが現在は、「半年先、一年先はどうなるのか想像がつかないし、想像したくないというのが本当のところですが、今は子どもの健全な成長を支えることが私の大きな目標です」と語る。