40代の妻は長男を出産後に若年性認知症であることが発覚。以降、徐々に本人が本人でなくなる症状が悪化し、怪しい通販を勝手に注文したものの注文したことを完全に忘れ、120万円のキャッシングもしていた。メーカー研究職の夫は働きながら、そんな妻の介護ケアや家事や育児をした――。
この連載では、「ダブルケア」の事例を紹介していく。「ダブルケア」とは、子育てと介護が同時期に発生する状態をいう。子育てはその両親、介護はその親族が行うのが一般的だが、両方の負担がたった1人に集中していることが少なくない。そのたった1人の生活は、肉体的にも精神的にも過酷だ。しかもそれは、誰にでも起こり得ることである。取材事例を通じて、ダブルケアに備える方法や、乗り越えるヒントを探っていきたい。
妻の異変
関西地方在住の緋山青二さん(仮名・40代・既婚)は幼い頃から数学や理科が好きだった。
中でも化学が得意だった緋山さんは企業研究者を目指して大学院まで進学し、卒業後は希望通りメーカーの開発職に就いた。
やがて26歳の時に友人と旅行に出かけた先で後に妻となる女性と出会い、30歳の頃に交際に発展。女性は3歳年上で、Webデザインの仕事をしていた。
約1年後、緋山さん31歳、妻34歳で結婚。結婚後、妻はパートタイムに移り、40歳で娘を出産した後は専業主婦となった。
「妻はもともと穏やかな性格でしたが、一方で物事に対するこだわりが強く、面倒な部分もありました。デザインの仕事をしていましたし、家具や雑貨選びのセンスは良かったと思います。しかし、2019年(妻42歳)の秋頃から物事に対するこだわりがなりを潜め、性格が丸くなり、何事にも反論しなくなってきていたのが気になっていました」
2019年。3歳になった娘を認可外保育園に預け、9月から妻は派遣で事務の仕事を始めた。だが2〜3日で先方から断られる形で退職を余儀なくされる。
「仕事の物覚えが悪く、メモを取ったりしても作業がおぼつかなかったようです。今考えると、この時にはすでに考えることや新しい作業が難しくなっていたのではないかと思います」
そんな中、妻が2人目を妊娠。2020年に入ると、保育園の迎えが定刻に間に合わなかったり、娘を自転車に乗せたまま自分だけスーパーに入って買い物をしたりするなど、不安な育児行動が見られるようになっていた。