ある家庭では、ひきこもりの子どもを「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーができるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破るすべを模索したい。
今回は、現在50代でバツイチの女性が再婚した、同じ歳の夫の家庭のタブーを取り上げる。彼の「家庭のタブー」はなぜ生じたのか。そしてその泥沼から逃れられたのか。
一度目の結婚
中部地方在住の片桐蘭子さん(仮名・50代・既婚)は、国立の理系の学校を20歳で卒業すると、研究施設の管理部門で働き始め、21歳の頃、同じ会社で働くSEの男性と出会い、24歳で結婚した。
ところが結婚して2年ほどでセックスレスになり、次第に、「自分に魅力を感じていない人のいる家に帰りたくない」と思うように。
「子どもがほしい」と伝えても、排卵日に義務的にするだけ。それでも片桐さんは自分から誘うことができず、ただイライラし、女性としての自信を喪失していく。前夫はイライラの理由には触れず、ただ「美味しいものを食べに行こうよ」と言ってきた。
「私も前夫もお互い、『結婚したいくらい好き!』というわけではなく、『早く結婚したい!』とか、『そろそろ結婚したほうがいい年なんだろうな』みたいな感覚で結婚したのだと思います」
結婚から13年後、37歳の時に片桐さんは離婚を切り出した。すると前夫は開口一番、「あと2年のうちに俺が死んだら、生命保険で1億円入ってくるんだから、考え直したら?」と返答。しかし片桐さんは、「子どもがほしい30代女性の2年がどれほど貴重な時間かわかってないんだな」と内心苦笑し、首を振る。それを見た前夫は、「婚約指輪は返して」と言った。
「まさかあげたものを返せと言う人だとは思いませんでした。私は前夫のことを何にも知らなかったのかもしれません」